中国法律事情「交通事故」高橋孝治
中国の法律を解り易く解説。
法律を知れば見えて来るこの国のコト。
交通事故
中国で交通事故に遭ってしまったらどうすればいいのでしょうか。中国で交通事故が起きた場合について交通安全法という法律が細かく規定しています。そして実は中国では交通事故が起きても必ずしも公安に連絡しなくてもいいのです。
まず、交通事故が道路上で起きた場合、運転手は直ちに車の運転を止め、現場を保全しなければなりません。そして死傷者が出ている場合は、死傷者を救助し、直ちに交通警察か公安の交通管理部門に通報しなければなりません(交通安全法第70条第1項。以下の条文番号も全て交通安全法)。死傷者が出ず、当事者が事実や原因につき争いがなく、直ちに現場を離れることができる場合には、交通を回復させ当事者間で損害賠償につき協議を行います。直ちに現場を離れることができない場合には交通警察や公安の交通管理部門に通報します(第70条第2項)。交通事故が道路上で起きた場合で、財産損失も軽微でかつ基本事実も明確な場合、当事者はまず現場を離れ、その後協議をすることになります(第70条第3項)。また、交通事故が発生したにも関わらず逃走された場合(いわゆるひき逃げ)、事故現場の目撃者およびその他事情を知る者は交通警察か交通管理部門に通報しなければなりません(第71条)。
以上のように少なくとも法律上は、死傷者が出ておらず、交通事故の当事者双方が話し合いをし、自分たちで解決できる場合には中国では公安などに通報する必要はないのです。しかし、交通事故というのは後日後遺症のようなものが出る可能性があります。そのための対処として、交通警察や交通管理部門にはなるべく通報した方がいいでしょう。通報すると交通管理部門は「交通事故認定書」という書類を作ります(第73条)。交通事故認定書とは、交通事故が起こったときに、公安の交通管理部門が交通事故の現場検証をして交通事故の事実や当事者の責任について記載する書類です。この書類には事故の原因および責任などの後々重要な証拠となる内容が記載され、民事賠償責任の負担にも大きな影響を与えます。
この交通事故認定書があれば後に当該交通事故が原因と思われる後遺症が発症しても加害者に責任を追求できるでしょう。なお、交通事故認定書に記載される内容は、交通事故の当事者、車両、当時の道路および交通の状況、交通事故の基本的事実、当事者が交通事故を起こした過失および責任の所在などです。なお、公安の交通管理部門の電話番号は「122」です。この番号はなるべく憶えておくようにしましょう。
〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
中国法ライター、北京和僑会「法律・労務・税務研究会」講師。都内社労士事務所に勤務するも中国法に魅了され、退職し渡中。現在、中国政法大学博士課程で中国法の研究をしつつ、中国法に関する執筆や講演などを行っている。行政書士有資格者。特定社労士有資格者。法律諮詢師(中国の国家資格で和訳は「法律コンサル士」)。詳しくはネットで「高橋孝治 中国」を検索!