目から鱗の中国法律事情 「中国で、一つの事例に法律が競合する場合①」
中国の法律を解り易く解説。
法律を知れば見えて来るこの国のコト。
Vol.89 中国で、一つの事例に法律が競合する場合 その1
日本では、似たような法律が複数ある場合、法律の適用順序についてもルールがあります。このような法律の適用順序のルールについては、法律に規定があるわけではありませんが、日本では、基本的に新しい法律が優先的に適用され、また一般法との関係では、特別法が優先的に適用されるということになっています。
一般法とは、広く一般的に適用される法律で、特別法とは、限られた場合に適用される法律のことです。例えば日本の民法は、一般的な売買のルールを規定していますが、日本の消費者契約法は、個人が業者と売買する場合に適用される法律になっており、個人が業者と売買する場合には消費者契約法が民法に優先して適用されることになります。
ところで、中国ではこのような法律の適用の優先順位が明確に定まっていません。それでは、中国で一つの事例に適用される可能性がある法律が複数ある場合はどうなるのでしょう。今回のシリーズではこれを見ていきましょう。
家の立ち退きに関する事例
まず、中国で実際に起きた事例を見ておきましょう。
[事例]AがBから家を買い、その際にBは「間もなく隣接する道路の拡張工事があり、庭が少し削られるが立ち退く必要はない」と説明していました。Aは鍵を受け取り、その家での居住を開始しました。ただ、家の所有権移転登記はまだ済ませていませんでした。3ヶ月後、隣接する道路の拡張工事が始まりましたが、当初の計画から変更があったのか、結果としてAは当該家から立ち退かざるを得なくなりました。そこでAは当該家の売買契約の解除を求め提訴しました。
この裁判の結果としては、Aによる契約解除の主張は認められました。この裁判では、契約法(中国語原文は「合同法」)第94条が適用されたのです。契約法第94条は、「以下の一つの状況に該当する場合、当事者は契約を解除することができる。(1)不可抗力により売買の目的が実現できなくなったとき。(以下略)」と規定されていました。
しかし、この結果に不満を持ったBは上訴しました。(続く)
〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら講演活動などもしている。韓国・檀国大学校日本研究所 海外研究諮問委員や非認可の市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。FM西東京 84.2MHz日曜20時~の「Future×Link Radio Access」で毎月1、2週目にラジオパーソナリティもしている。Twitterは@koji_xiaozhi