中国法律事情「中国での契約無効 その1」高橋孝治

2017/10/10

契約は人と人が基本的には自由に結べるものです(契約自由の原則)。そこで基本的には相手の同意がないと一度締結した契約の内容を変更することはできません。ところが特定の場合には、契約の内容を変更するどころか一方的に契約の無効を主張することができます。

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例えば日本では以下のような場合に契約が無効になります。公序良俗に反する場合(日本の民法第90条)、強行法規に反する場合(民法第91条)、通謀虚偽表示の場合(民法第94条。これについては次回詳しく説明します)、契約内容を解除する条件が既に成就している場合(民法第131条。例えば「お金を貸すけれど、2013年になったら返して」と2014年に契約する場合など)、不法な条件を付した場合(民法第132条。例えば「人を殺したら100万円あげる」と契約した場合など)、不可能な条件の成就により契約の効力を持たせる場合(民法第133条。例えば「太陽が西から昇ったら100万円あげる」と契約した場合など)などです。どれも犯罪を助長するものや契約内容に無理があるものばかりで、相手の同意なくても契約内容を無効にできることには納得がいくものばかりです。

ところが中国ではこのような論理とは異なる契約無効の理論を持ちます。つまり社会主義国家であるために、全体の利益をも考えなければならないのです。
契約関係も契約を結ぶ人同士のみがいると考えるのではなく、契約を結ぶ人と社会があると考えるのです。

具体的には中国の合同法(「契約法」と訳すことが多いようです)第52条には以下の契約は無効であるとしています。①一方が詐欺または脅迫という手段で契約を締結し、国家の利益を損うもの、②悪意で通謀し国家、団体または第三者の利益を損なうもの、③合法形式を装った非法目的のもの、④社会公共利益に損害を与えるもの、⑤法律、行政法規の強行規定に違反するもの。また契約全てではありませんが、契約のうち①相手の身体を傷つけても免責されるという条項、②故意または重大な過失で相手の財産に損害を与えても免責されるといつ条項は無効となるとしています(合同法第53条)。

(続く)

高橋孝治
〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
中国法研究家、北京和僑会「法律・労務・税務研究会」講師。中国法の研究を志し、都内社労士事務所を退職し渡中。中国政法大学博士課程修了・法学博士。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)。詳しくは「高橋孝治中国」でネットを検索!

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