目から鱗の中国法律事情 Vol.21「中国の手形小切手の概要その1」
企業間同士で支いの決済を行う場合には、「現金は後日支う旨の約束」をし、そのときは現金を支払わないこと(いわゆる掛け金にする)や、他人に対して持っている債権で支払うということがあります。これらは口頭の約束でも双方が合意すればそれで構いません。しかし、口頭の約束では「後日支払う旨」の約束は本当に守ってもらえるのか、他人に対して持っているという債権は本当に存在しているのかが分かりません。
この問題を解決するために、「目に見えない権利」を「目に見える形」にしたものが手形や小切手と呼ばれる証券です。手形小切手のうち、「〇月〇日に現金を支払う」ことを約束した証券を「約束手形」、あらかじめ他者に対して債権を持っており、「その債権を譲渡する」旨を記載した証券を「為替手形」と呼びます。さらに、あらかじめ銀行に当座預金があり、現金は銀行の日座から受け取るように指示した証券を「小切手」と言います。
手形小切手の送金機能
先ほど説明した手形小切手の形式は、日本などのものです。これに対して中国の手形小切手は日本などのものとは全く異なる趣旨を持ちます。中国の手形小切手は、銀行を通じて中国国でどのような取引が行われたのかを政府が管理するための制度となっています。つまり国内の取引を政府が管理していた計画経済の延長上にあるといえます。
そのため、中国の手形小切手の基本的な流れは、①銀行に手形小切手を作成(振出)してもらい(または銀行に引受(承認)をもらい)、②その手形小切手で取引相手に支払いをし、③現金に替えたいと思った手形小切手の所持人が(②で手形小切手を受け取った者が他者に手形小切手を譲渡(別の支払いに使用)することもある)銀行に手形小切手を提示して現金を受け取り、④現金を支払った銀行が手形小切手の引受・承認をした銀行から現金を回収するという形になります。
つまり、中国の手形小切手は、「債権を目に見える形にして譲渡する」ことは基本的になく、あらかじめ銀行で購入した手形小切手を相手に渡し、相手方はそれを現金化するという送金機能が主な機能となっています。(続く)
〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
中国法研究家、北京和僑会「法律・労務・税務研究会」講師。中国法の研究を志し、都内社労士事務所を退職し渡中。中国政法大学博士課程修了・法学博士。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)。詳しくは「高橋孝治中国」でネットを検索!