目から鱗の中国法律事情 Vol.62
中国の法律を解り易く解説。
法律を知れば見えて来るこの国のコト。
中国の著作権法改正 その4
今シリーズでは、2020年11月11日の中国著作権法の改正(2021年6月1日施行)について見てきています。今回もその続きです。
「実演家の権利(続き)」
中国著作権法改正の理由は、実演家の権利保障をする「視聴覚的実演に関する北京条約」という著作権に関する国際条約に対応するためのものでした。実演家の権利保障として、改正中国著作権法第40条は以下のように規定しました。
中国著作権法第40条
演者が所属する実演事業者の実演業務遂行のために行う実演は、職務実演とし、演者は身分を表示する権利と、演出イメージが歪曲されないよう保護を受ける権利を有し、その他の権利の帰属は、当事者間の取り決めによる。当事者間に取り決めがない、または取り決めが不明確な場合には、職務実演の権利は実演事業者が享有するものとする。
職務実演の権利を演者が享有する場合、実演事業者はその業務範囲内で当該実演を無償で使用することができる。
日本でも、「視聴覚的実演に関する北京条約」に対応するための著作権法改正が2014年(平成26年)5月14日に行われました(2015年(平成27年)1月1日施行)。これによって、このとき日本の著作権法には以下のように改正されました。
日本の著作権法第7条
実演は、次の各号のいずれかに該当するものに限り、この法律による保護を受ける。
一 国内において行なわれる実演(改正により下線太字部分が「行われる」に改正)
二~七 (略)
八 前各号に掲げるもののほか、視聴覚的実演に関する北京条約の締約国の国民又は当該締約国に常居所を有する者である実演家に係る実演(八は新設条文)
日本ではもともと実演家の権利を保護していたため、中国と比べると大きな改正ではありませんでした。日本の著作権法第7条第1号の送り仮名の誤りを修正し、第8号を新設したのみです。この第8号で、日本も「視聴覚的実演に関する北京条約」を締結した国の国民または居住者である実演家の権利を保護しているのです。
しかし、日本では「実演が法律による保護を受ける」としているのに対し、中国は「演者は身分を表示する権利と、演出イメージが歪曲されないよう保護を受ける権利を有」すると具体的に規定されており、専門知識がない者にも分かりやすいと言えます。
〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!