アナシス人事労務誌上相談「業績悪化時の評価はどうする?」

2023/12/13

Vol.72

M1問い:非常に業績が厳しいので、賃上げもままならないと思っています。こういうときの評価はどうしたらいいのでしょうか?

黒崎:中国でも香港でも法的に賃金を上げなければならないということはありません。しかし評価そのものはしなければなりません。今回は景気後退下・業績悪化時の評価について考えます。
業績が悪い時、もし業績連動型成果主義評価を実施しているとすれば、以下の課題がでてきます。

1)トップ人材のデモチベーション・離職
優秀な人材が不可抗力による評価の低さや不透明さを感じた場合、モチベーションの低下や離職につながるリスクがあります。
2)部門間格差と不公平感による組織連携力の低下
業績連動は主に営業部門に大きく影響しますが、成果主義に基づく評価は部門間の不公平感を生じさせ、組織全体の連携力と協調性の低下を招く可能性があります。
3)短期重視・近視眼化による組織能力の低下
業績を重んじるが故に、短期的な目標達成に重点を置くことになりがちで、長期的な戦略やイノベーションの機会を見落とす可能性があります。これは組織の総合的な能力と成長の機会を損なうリスクとなります。
4)目標設定能力不足管理者の顕在化とエンゲージメント低下
管理者が適切な目標設定能力を持たない場合、未達成が続く・信頼関係の崩壊など従業員のエンゲージメント低下を招く可能性があります。
5)ぶら下がり人材の顕在化と組織文化の劣化
組織貢献していない人材の存在は、成果主義が不透明で不公平な評価基準に基づくと見なされ、従業員は「やってられない」とその不条理さに嫌気がさす可能性があります。これは組織文化の劣化につながり、全体の生産性に悪影響を与えます。

そもそも結果だけを追い求めるような「結果主義」では業績悪化時は救いようがありません。非財務的成果指標がその成果評価に含まれている必要があります。たとえば業績に関係して発揮されたコンピテンシーなど、行動・態度・姿勢といった指標が効果的に取り入れられているかどうかも課題となります。弊社では成果とはプロセスと結果の二段構えと定義しています。
以上課題を挙げてきましたが、成果主義がダメだという意味ではなく、業績悪化時の注意点とお考えください。

さて多くの方がリーマンショックを経験されたと思います。当時各社は業績が悪化し整理解雇も賃上げ凍結も続出。厳しい時代でしたが、当時のポイントは4つあったと考察しています。

1)柔軟な目標設定
上記課題の4にもありますが、環境変化に柔軟に目標修正をしている企業がありました。最終的には当初の年間目標は達成出来ないにしても、従業員の達成意欲を刺激し続ける励みにはなっていたはずです。
2)ポテンシャル評価の取り込み
人事評価は本来は過去に対してのもので、今や未来を評価するものではありません。ここでいうポテンシャルも、評価期間内における未来の業績を生み出す行動を指します。挑戦性・主体性・適応性やリーダーシップなど、その学習能力を含め評価対象とした時、未来への期待を動機づけるものになったと思います。
3)透明性の担保とコミュニケーションの強化
人事制度は本来透明性が担保されたときにより有効だと言われています。ここ中国・香港では賃金レンジなどはなかなか公開されるものではありませんが、たとえば評価基準や評価プロセスなどをできる限り説明し、積極的に従業員とコミュニケーションを取った企業は当時も適切な人材を失っていなかったのではと思います。
4)トレーニング・スキル開発の強化
そもそも評価の目的は処遇の決定だけではありません。人材育成もその目的のひとつ。たとえ業績という結果は出せなくても、人は育ちました。そしてそこへ取り組むことでも従業員たちは未来への期待を持てたと思います。

リーマンショックからV字回復した経営者へのある調査では、リーダーシップが重要だったと9割以上が答えています。危機的状況では強いリーダーシップが必要でしょう。その調査結果をもとに私なりにリーダーの行動をまとめ直すと以下の7つになります。

1.具体的な目的・目標
2.優先順位の明確化
3.心理的安全性を確保し、意見をよく聞きアイデアを殺さない
4.メンバーの自己管理・自律を促す
5.定期的なフィードバック
6.チームビルディング
7.リーダーのEQ向上

詳細はここでは書ききれませんが、「これを乗り越えれば思考」と私が呼ぶ、ポジティブな姿勢が求められると思います。レジリエンス思考です。

<黒崎幸良 Anaxis Ltd. グループCEO>
86年より一貫して人事系業務に就き、92年より中国ビジネス、02年香港で独立。香港華南のベテランコンサルタントが集結して2016年にAnaxis Ltd.を創業、香港・深セン・広州・上海に拠点を持つ人事労務コンサル会社を経営。各種研修もオーダーメイドで実施中。


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