アナシス人事労務誌上相談 Vol.63「香港の賃金改定率も賃金も、高すぎませんか?」

2023/03/15

M1問い:4月の賃金改定を検討しています。予算は昨年並みにしてありますが、離職されたら困ります。求人しても人がなかなか応募がない状況。しかし相場が上がりすぎていて、賃上げ率も少し高すぎませんか?

黒崎:経営にとっては厳しいシーズンが来てますね。高すぎると感じる方もいらっしゃるかも知れませんが、今年はより「投資」の意識を高めなければならないのではと考えています。おっしゃるように今年の賃金改定はそれほど簡単ではなさそうです。
まず、賃金改定につながる評価前の準備については以下の6つです。
1.評価制度の再確認
2.昇給原資(予算)と市場動向の確認
3.業績データの収集
4.評価期間内のコミュニケーション等の記録・事実の収集
5.過去評価データの確認
6.「逆算評価をしない」などの評価エラー対策の再確認
評価の原理原則を確認しておくことも必要です。評価の対象は「人」そのものにあらず、ある一定の評価期間におけるその人の業績結果や行動・態度・姿勢になります。「能力評価」をするとしても、その人の「保有能力」ではなく、その評価期間においての「発揮能力」が対象です。能力の高い人がいつも高い評価であるという訳ではないのです。
さて、上記準備の6番目に「逆算評価をしない」と書きました。これは最終的な賃金の実額を上げるために、帳尻合わせとしての評価をしてしまうこと。実際は出来てもいないのに出来ていると部下に思わせてしまう評価のことをいいます。
特に今年は求人環境が良く、転職が成功すれば10%から20%、あるいはそれ以上も賃金が上がるような状況です。この環境が特に一般職層に顕著に表れており、賃金の底上げを実施した企業も少なくありません。最終的な総額人件費における日系企業の賃金改定率はそれほど高くはなりそうもありませんが、一部の企業は香港でも7%、8%アップを実施しています。
それだけ上昇させたとしても果たして引き留めに有効かどうかは不明です。確かに先が見えない中で、確約された賃金は魅力的ですが、働きやすさを含めた「非金銭的報酬」も忘れてはなりません。
賃金改定の市場動向は業績の差にも影響されますが、たとえ業績が悪い企業でも消費者物価指数を超えてくる傾向があります。今年は日本も賃上げ圧力が強いので、日系企業の経営においては本社との交渉は例年よりたやすいかもしれません。それでも賃金の上昇は経営を圧迫していくことになりそうです。
そうした賃金改定率と評価は、一旦別物として考えることをお勧めします。評価は評価。約束したことを果たせたかどうか、能力開発されたかどうかなど、事実に対してできる限り客観的に評価するものです。なぜならば評価の目的は処遇の決定のみならず、人材開発などの側面もあるからです。
そして今年の賃金改定は冒頭に書きました「投資」がテーマとなるでしょう。これまでは出したくても出せなかったレベルの賃金を、今年は出しておかないと結局辞められてしまうかもしれません。スタッフの退職後に、リプレイスで後から入社してくる人の方が高い給与となってしまいながら、実はより低いパフォーマンスという残念なケースが出ています。そんな人に高い給与を支給するなら、辞められる前に賃金をもっと上げておけば良かったと後悔するなど。
しかしながら、ただ「言ったもの勝ち」の世界にも未来がありません。言わせるだけでなく、やってもらわないと。賃金通りのパフォーマンスを上げてくれればそれでいいはずなのです。求めるレベルの賃金を払ったからには経営もリターンが欲しい。賃上げするなら生産性を上げて欲しい。稼ぐ力も上げてほしい。そうした稼ぐ力を伸ばす仕掛けを経営もしなければなりません。賃金はコストではなく、投資です。
もっとも、人が足りない企業もなんとか回ってしまうことが多い。ホワイトカラーはまだまだ生産性が低いので、それを見直せば一人や二人分の人件費を浮かせることができる組織は少なくないでしょう。その人件費を賃金の見直しに充てることで総額人件費の増大を防ぐ。
意図せずに、結果としてそうなっている企業もあります。戦略的に「生産性」を再定義し、業務の変革に取り組むことも「投資」の一つとなるでしょう。

<黒崎幸良 Anaxis Ltd. グループCEO>
86年より一貫して人事系業務に就き、92年より中国ビジネス、02年香港で独立。香港華南のベテランコンサルタントが集結して16年にAnaxis Ltd.を創業、香港・深セン・広州・上海に拠点を持つ人事労務コンサル会社を経営。


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