アナシス人事労務誌上相談「責任をとらないマネジャー」

2023/07/19

Vol.67

M1問い:マネジャーというタイトルとやっている職務が合っていないようなのです。等級制度に問題があるのでしょうか?

黒崎:制度とその運用の両方に問題がありそうですね。対外的な役職名・呼称である「マネジャー」と、社内での役割・職務の違いは残念ながらよく起こっている課題です。マネジャーというタイトルが商談を容易にするため、タイトルの乱発など不適切な付与も生まれやすく、また少数人員のマネジメント上ではより柔軟な制度の方が利用しやすいなどの問題もあります。さらにタイトルと現地給与相場が適切にリンクしていないという問題があれば、人事制度の見直しは必要となるでしょう。しかしこういった問題の多くは先送りされてきました。現地進出から年月が経過し制度の修正が必要な企業は多いと感じています。是非見直しをお勧めします。
等級制度は主に3つに分類されます。「能力」をもとに人材をランク付けすれば「職能資格制度」、「職務」の価値をもとにランク付けすると「職務等級制度」、大まかな職務と役割・責任によってランク付けしたものが「役割等級制度」です。日本では従来能力が高ければ上位役職にいけるという「職能資格制度」が主流でした。しかしこれが年功序列的に運用されると現代のマネジメントには不適合となり、Job型雇用が注目されてきています。Job型の定義は企業により異なりますが、本質的には職務等級がベースとなります。元々海外は職務に応じて給与に違いのある職務等級が一般的です。
しかし、職務価値を明確に定義してランク付けすることの難しさと、個別の職務定義書に基づくマネジメントになれてない日系企業にとってはややハードルの高いものだったことから、その折衷案とも言われる「役割等級制度」が日本でも普及してきています。この制度の定義も企業によって異なるため、自社の課題に応じた設計が必要です。
例えば右記にあげた等級例をご覧ください。全体は大まかに経営・管理(・監督)・実行と3つないし4つに分類されています。
ここでは等級を6つに分けて定義していますが、一般的には5つから7つぐらいのグレードで設定され、より詳細に定義されます。これを職務等級と呼ぶか役割等級と呼ぶかは人それぞれですが、従業員10名ぐらいから数1000名規模でも適用できる分類です。昇級昇格を細かくして「昇進した感」をつくるためには、これらグレード内にさらにレベルを設定するのが有効です。
実際には職務はそれぞれ違うわけですが、同一グレードでの役割は営業でも財務経理でも同じとするのがこの役割等級です。この例では4等級を社内的にはマネジャーと呼ぶのが一般的でしょう。対外呼称と社内呼称に違いがある場合があるため、ここでは具体的な役職・ポジション名を入れていません。もし管理の職務・役割をしていないマネジャーが存在しているとしたら、この定義を見直し、新しい役割を求めていくことになるでしょう。あるいはタイトルは社外的な役職名はそのままに、社内での等級を再設定することになります。
いずれにしてもタイトルにこだわる当地の従業員のことを考えれば、制度の十分な検討とその伝達方法が重要になります。
この役割等級制度では、職務記述書がなくても運用可能です。しかし私たちアナシスでは「職場職務記述書」というコンセプトを推奨しています。各職場単位で具体的な職務を記述し、それを役割等級の階層で区分するというものです。これによって、各職場で果たさねばならない職務・役割が見える化されます。
個別職務記述書による「言われたことしかしない」ような弊害を避け、より上位を目指す人への職務の割り当て・挑戦や、チームワークを通じた業務遂行も促進できるはずなので導入をご検討ください。
また、等級制度を構築する際は、本社やグローバルな等級との整合性も検討する必要があります。その際、グループ内で役職名・呼称の違いにも注意が必要です。発言の重みが役職名に影響されるのも問題ですが、誰が責任者なのかが不明なケースは避けたいものです。スクリーンショット (2430)

<黒崎幸良 Anaxis Ltd. グループCEO>
86年より一貫して人事系業務に就き、92年より中国ビジネス、02年香港で独立。香港華南のベテランコンサルタントが集結して16年にAnaxis Ltd.を創業、香港・深セン・広州・上海に拠点を持つ人事労務コンサル会社を経営。


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