アナシス人事労務誌上相談 Vol.56「リテンション対策とは」

2022/08/24

M1問い:人が辞めやすい組織になっている気がします。どう考えればいいでしょうか。

黒崎:リテンション対策とは、会社が求める人材を引き留める諸施策を指します。その会社で働き続けたい理由は、人それぞれです。それゆえ経営としては全体へ向けての対策と個別対策をとることになります。前提として、求める人物像・組織像ができる限り明確になっていることがあります。どんな人材に活躍して欲しいのか。企業によっては階層別に求める人物像も違っていることでしょう。人材ポートフォリオを作っている企業はそのセグメント別でもマネジメントが変わってきます。従業員一律のマネジメントから、個別対応性が増してより複雑化したものになっているのが現在です。しかも、香港・華南では外部環境の変化への対応のため、その求める人物像も変化してきていると思われます。

さて全体対策としてのリテンションとしてまず考えなければならないのは金銭的報酬です。香港・華南でも転職理由の筆頭に上がってくるのは賃金です。納得のいく評価とその結果としての給与・賞与。そして休日休暇を含む福利厚生。それらへの対策としては市場と自社を分析し、十分な予算と制度を準備する必要があります。しかし市場に見合った待遇を付与するのであればそれだけの成果も求めなければなりませんが、そのマネジメントの仕組みにはまだまだ工夫が必要な企業が多いようです。

しかし当地でも給与だけが転職理由ではありません。コロナ禍での香港でのある転職調査では「Prospect(将来性)」という言葉がかなり見受けられました。先が見えにくい現代、企業やその職種の将来性に関心が高まるのは必然です。そんな中で現在の自分の仕事に興味を失ったという理由や、また香港のように海外移住といった理由も多数出てきています。この最後の理由に関しては人生の選択の問題であり、課題も多い越境労働以外に企業としての対応策はなかなか見つかりません。

長期勤務を前提としたマネジメントは見直す必要があるでしょう。小規模組織においては、一般層は2、3年程度で入れ替わっており、そもそもその層では長期前提はないのではないでしょうか。しかし幹部層は安泰のポジションなので長く勤める。その幹部達が定年を迎えてきて、後継者がいないケースが続出しています。

まず誰に残って欲しいのかを明確にすべきでしょう。そしてその人達に残ってもらうためには、彼らのモチベーションがどこにあるのか、組織に貢献する意図をどれだけ持って業務に打ち込んでいるのかなどを知る必要性があります。エンゲージメントサーベイなどはその辺を意図しています。

あるいは採用そのものから見直す必要もあります。会社にとって「適切な人材」の採用が、定着期間を延ばすでしょう。しかしその期間はせめて5年以上ではないかと私は考えます。採用コストを考えても、そして成果を発揮してもらうまでのスピードとピーク、さらにはトップの駐在期間との関係上もそれぐらいは欲しいところです。ピークパフォーマンスを出し続ける期間が5年もあるのであれば、雇用としては成功だという腹のくくりが必要なのが現在だと思います。それ以上やってもらえるときはかなりエンゲージメントが高いスタッフで、現地化に対応できるグローバル人材として全社で育成していく対象となるでしょう。

人事の観点でのリテンションの全体対策では、これまで述べてきたような最適配置・評価・昇格・賃金・賞与・福利厚生・人材開発等諸制度の変更があります。その際、金銭的報酬だけでなく、それ以外の「報われ感」をもたらす非金銭的報酬を含めたトータルリワードのコンセプトが必要です。そこにリーダーシップが問われます。現場でのリーダーシップ・職場の心理的安全性・トップの薫陶・1on1などのコミュニケーション等が、それら非金銭的報酬に影響しています。

今の香港・華南では、「将来性」と「トータルリワード」という2大リテンション要素、会社と職場の人間関係への信頼が問われています。そして仕事そのものの意義や価値も問われます。経営者が従業員達とどうコミュニケートしていくのか。「辞める」と言われてはすでに遅いこの問題、その予防としての対策をしっかりたてておく必要があります。

 


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