アナシス人事労務誌上相談 Vol.60「リスクマネジメントの考え方を教えてください」

2022/12/15

M1問い:日本本社から現地でのリスクマネジメントを検討せよと言われてまして、、

黒崎:私自身は想定していなかった今年2月のウクライナ侵攻や新型コロナの超長期化など、企業は有事に際し様々な対応に追われました。2019年の香港の抗議運動や、2020年の武漢からチャーター機で在留邦人が避難したことなどもやや遠い昔に感じられます。相変わらず新型コロナの感染は続き、その対応に一部緩和が見られるものの、香港深セン間の行き来などもまだかなり制限されています。こうした中、有事に対する備えを見直す企業も少なくないと思われます。リスクマネジメントにおいては「恐れすぎず侮らず」を基本として、想定すべきことに「思考を通しておく」ことを推奨してきました。今回は一般論としてのリスクマネジメントとして準備しておきたい4つのことを考えていきたいと思います。

1.有事の危機管理体制
緊急事態に慌てないためにも平時にその危機管理体制を整備しておくことが必要です。日本本社などにその体制やマニュアルがあることも多いのですが、見直しが図られていないこともありますので、日本に頼ることなく現地法人で改めて検討・見直すことをお勧めします。
まず重要なことは危機管理責任者・担当者のアサインメントとその序列定義、そして緊急連絡網の整備・更新です。
序列定義とは責任者が感染した場合や出張時不在などの時に、次の責任者がすぐ対応出来るようにしておくことです。実はこの序列づくりで、人としての信頼性と役職がリンクしていないことが起こって困るのが多くの企業の課題です。危機的状況において発揮されるエマージェンシーリーダーシップは人格と能力のかけ算であり、自然と人がついていけるものなのですが、それに見合うリーダーの欠如に直面してしまう組織があるわけです。意思決定できないリーダーに責任者を指名することはすでにリスクとなります。シミュレーションによるトレーニングなども必要となるでしょう。
その責任者のリーダーシップのもと、次に示す様々な準備や遂行がはかられることになります。

2.リスクマネジメントマニュアルの整備・改訂
危機管理対策の基本としては(1)リスクを洗い出し・認識する(2)その影響を予測する(3)対応を選択・実行する、という三つのステップがあります。リスクマネジメントの進んでいる企業と一緒にリスクマネジメントマニュアルを作成した経験からいえば、最も重要に感じたのは責任者達によるリスクの洗い出しでした。それはリスクのヌケモレの確認であり、様々なことを想定して「思考を通す」機会でした。また、生じている「温度差」の調節ともなりました。今中国や香港で起きていることなどにおいても、実際には情報の量と質の違いによって様々な「温度差」が生じていると思います。この事前調整の有無でも有事の際には大きな差が生まれることでしょう。
リスクそのものの完全な消去はできないものの、潜在リスクへの認識とその管理が重要になるので、この「リスクの洗い出し」は非常に有効なのです。オフサイトミーティングなどのテーマにすることも推奨します。そこではゼロベース思考とファシリテーションスキルが求められます。

3.情報収集・分析・共有方法の整備・改革
リスクの洗い出しでもその情報収集力は問われますが、日常における情報収集およびその冷静な分析力は、コトが起こるのかどうかの判断にもつながる重要なスキルとなります。公的機関ルートは最低限抑えておく必要があります。LINEでの「外務省海外安全情報」は、「ゴルゴ13の海外安全対策マニュアル」などを面白く紹介していますが、実はかなり為になります。SNSルートの情報も重要な情報源ではありますが、信頼性チェックも必要であり、また中国内においてVPNを使うことの是非という問題も存在しますので要注意です。
収集した情報の効果的な共有方法にも課題があります。未確認の怪しい情報でもシェアするべきなのかどうか、誰宛に共有するべきなのか。現場の人達それぞれが、注意喚起すべき対象をイメージできるまでにシミュレーションできている状態はかなり進んでいる組織です。

4.トレーニングの実施
何かが起こった時、実際にはマニュアルを読んでいる余裕がないのが実情でしょう。あるいは書かれていない想定外が起きる。そのためには前述のリスクの洗い出しオフサイトミーティングなど、思考を通すためのシミュレーショントレーニングが有効だと思われます。たとえマニュアルがあったとしても、駐在員・担当者の変更によって企業の危機管理能力が落ちてしまうこともあります。責任者達が1度時間を作って話し合うことをお勧めします。

<黒崎幸良 Anaxis Ltd. グループCEO>
86年より一貫して人事系業務に就き、92年より中国ビジネス、02年香港で独立。香港華南のベテランコンサルタントが集結して16年にAnaxis Ltd.を創業、香港・深セン・広州・上海に拠点を持つ人事労務コンサル会社を経営。


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