花樣語言Vol.130かぼちゃvs.なんきん2.0

2017/12/05

冬至に、中国北部では餃子を、南部では湯圓というダンゴを食べます。日本ではカボチャを食べますが、この風習は明治以降に始まったもので、「伝統行事」と言っていいものかどうか微妙なところ。

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冬至のカボチャは由来がよくわかりません。あと付け、捏造が多い、伝統行事の「由来」。都市伝説的で、楽しむための語源、話題提供としての「善意の捏造」ですが、一説に、冬至には「と」の字の付くものを食べる、というのがあります。冬至(とーじ)→「との字」。豆腐、とうがらし、どじょう、そしてカボチャ。かつて関東ではカボチャを「とうなす」と言ったのです。大阪では「なんきん」やで。はいはいそのとおり、大阪では「ん」の字の付くものを食べます。れんこん、うどん、などなど。

カボチャの呼称の多様性は、安土桃山時代に伝来した、ポルトガル語のカボチャ「abóbora」に由来するボーブラ、ボーボラ、ボブラ、ボーフラ、などのあと、のちに日本中に普及することになる別品種が、新たに東南アジア・中国大陸から入ってきたことによります。カンボジア産のボーブラ、という意味でカボチャボーブラ、中国産あるいは舶来のボーブラ、という意味でナンキンボーブラ、などと呼んだことが記録に残っていて、これらの下略形がそれぞれ「カボチャ」と「ナンキン」です。カボチャウリ(カンボジアの瓜)、ナンキンウリ(舶来の瓜)というのもあります。同様に、舶来品であることを表す呼称に「からうり」(唐瓜、福岡県の一部)、「とううり」(これも唐瓜、山口県の一部)、「るすん」(ルソン島の意味、山形県庄内)、「ちょうせん」(朝鮮半島由来という意味、香川や愛媛・高知県の西部)。「ボーブラ」と「カボチャ」「ナンキン」で品種の違いを言い分ける地域もあり、江戸の滑稽本には「蕃南瓜(とうなす)と柬埔寨(かぼちゃ)ほど違ふのは新田の兄(せなご)の色恋か」というのがあって、冬至、もとい、当時、江戸では「トウナス」と「カボチャ」、両方あったことがわかります。

「ボーブラ」が古く、「カボチャ」「ナンキン」が新しいわけですが、『日本言語地図』その他史料で確かめると、大阪は「ナンキン」、しかし京都は「カボチャ」であったと認めざるをえません。大阪と京都の間にナンキン/カボチャの境界線があったことは、その後、両者の命運を分けます。「ナンキン」は大阪より西に広まりますが、カボチャの栽培が早かった西日本にはすでに「ボーブラ」系が広く定着していて、これを駆逐できず、両者併用の地域が多いです。対して京都の「カボチャ」は東に展開、栽培がほとんどされていなかった東日本にその名称と共に一挙に広まってほぼ全域を席巻、それだけでは飽き足らず、九州でも栽培の遅かった薩摩藩や、中国地方の山間部と鳥取、四国の徳島、愛媛にまで「カボチャ」を伝えたのです。そして東京においても「トウナス」を圧倒、現在、標準語までもが「カボチャ」になった、というわけ。もし京都が初めから「ナンキン」だったなら、きっと今ごろ東京もナンキン。シンデレラはナンキンの馬車に乗り、ハロウィンにはナンキン・パイ。(って、それはさすがに、パンプキン・パイでしょう。)

それでも「ナンキン」は大阪文化の勢いに乗って、落語の「芝居、こんにゃく、芋、たこ、なんきん」(女性の好きな物)とか、「何がなんきん唐茄子かぼちゃ」(何がなんでも、の意味)などの言い回しで江戸の巷でも流行りました。さて、アクセント。大阪弁の「マクド」は頭高型●〇〇ではなく〇●〇ですが、「ナンキン」は●〇〇〇(古くは●●〇〇)。あの芸を関西芸人が演じるときの要領で。♪さて、さて、さてはナンキン●〇〇〇玉すだれ~。

カボチャ、トウモロコシ、サツマイモ、ジャガイモ、トウガラシ、など南蛮伝来の食材名の分布には、江戸時代の藩の区分が大きく関係しています。「トウモロコシ」は明治維新後も長らく南関東~静岡東部だけの限定的呼称で、教科書に載るようになって初めて全国に知られるようになります。東北では、キミ、キビ、九州、四国、北陸などではトウキビ(唐黍)、この「キビ」系が最も古く、分布も広いのです。尾張近郊などではコウライキビ(高麗黍)または単にコウライ、そして近畿一円から西にかけて、ナンバ、ナンバン(南蛮黍の略)。その他、モロコシ、トウムギ、トウマメ、などなど実に多様。対して、奈良時代からあった古い野菜である「茄子」は、糸魚川~三河ラインを境に、西の「ナスビ」と東の「ナス」にきれいに分かれます。古代、ナスビ(奈須比)はフォッサマグナを東に越えられなかったようで、室町時代以降、宮中の「女房言葉」である「ナス」が民間に広まるにつれ、ようやく東国にも伝わったのです。女房言葉は、おなす(なすび)、おこわ(こわ飯)、おさつ(さつま芋)、おでん(田楽)のように言葉の後ろ部分を省略するのが特徴。しゃもじ、すもじ、こもじ、などの「~文字」も同じく、杓子の「しゃ」、寿司の「す」、鯉の「こ」に+「文字」。江戸時代の隠語「ほの字」(惚れる)なんてのも、いとをかし。冬至にカボチャがたくさん売れれば、八百屋さんは「御の字」。

大沢ぴかぴ

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