殿方 育児あそばせ!第6回
多くの”はじめて“と、父の威厳
はじめて会った時、下界の空気に寒さを感じてか、眩しさに目を開けていられないのか、ぐっ……とした表情で眠っている。あの時はいまいち実感がなく、あぁやっと出てきたな、といった感じだった。それから色々なはじめてを見てきた。はじめての寝返り、ハイハイ、つかまり立ち、一人で歩き、転んだり。一応、父が見てきたのが本当の”はじめて“では無いことも多々あると思うが、少しずつ大きくなって、出来ることが増えていくんだなと思った。
そういえば、いつだったか、妻と3人で広州のどこかに行ったとき、少し早い昼食にしようとお店に入った。料理を選び、私はいつものようにビールを頼み、妻はレモンティーを頼んだ。
先に飲み物が出てきて、ついてきたレモンを見て、
平太郎「それ(レモン)舐めさせてみな」
妻「え〜、さすがにダメじゃないか?」
平太郎「もしかしたら平気かもよ」
妻「……」
小小「?(食べもの?)パクっ」
平太郎と妻「(にやにや)」
小小「!?」
最初こそ拒否していた妻も、にやけた顔でレモンを手に取り、息子の口へと運んだ。何も知らず(当たり前だが)、口に入れたあと、クシャおじさんの如く顔のパーツが中心に全部寄ってしまうほどの表情で「んん〜!!」っと悶絶する息子を見て夫婦は大笑い。
平太郎「やっぱ無理か(笑)」
妻「だからダメだって(笑)」
平太郎「…そんなに気に入ったのか?」
他人事のようだが、本当にひどい夫婦である。
ほかには、大したことではないけれど、はじめてのハロウィンパーチー。まだ自分でまともに動き回れない時期、どんな服装が良いか悩んでいた。妻がタオバオで吸血鬼っぽい衣装を見つけた。帽子と服のセットで安く、ほかに特に良さそうなのも無いので決めた。後日、届いた衣装のサイズチェックのため、試しに着せようと取り出し、まずは帽子をかぶせてみた。
まぁ思ったよりはいい感じだ。ところが本人は帽子が気に入らないらしく、不機嫌な顔になり、全力で脱ごうと帽子をグイグイ押し上げる。
平太郎「ぬ。かわいいのに何故取ろうとする」
そう言って息子の手をどけ、再度深く、丁度いい感じにかぶせなおす父。
小小「(何すんだ! この頭にある邪魔なものをどけろぉ)」
な感じで小小は藻掻く。少しの間、父と子の仁義なき戦いが続き、最後は子のチャクラが溢れ出し凶暴化したところで、あえなく帽子は地に落ちた。
平太郎「かわいいのに……」
何が嫌なのか、それから暫くは帽子をかぶせても長い時間はかぶることを拒否する息子だった。しかし、ある程度ものごとを分かり始めたころから、父がよく帽子をかぶる姿をみて、「なぜそれをあたまにのせる?」と言わんばかりに父から帽子を奪い取り、自分でかぶってみるという遊びを始めた。この時期は同時にメガネも攻めてくるようになった。
小小「う〜〜(そのメガネか帽子よこせ)!」
平太郎「やるか!こわっぱめ!」
小さいながらもフェイントを駆使して父からメガネor帽子を奪い取ろうとする息子に、父は威厳を示し、世の中は甘くないぞと獅子の如く非情に、全力で抗う。勝敗は3:7の割合で父が勝っているが、当然メガネは指紋だらけ。息子よ、まだまだ父として負けてはやれんのだ。
そんなこんなで、まだまだ”はじめて“は続いていく。いつの日か父を超えられる日まで、父の威厳も示し続けていこうと思う。
まんずまんず、まだまだだっきゃの〜。パパさ勝づんだば、あど10年、んにゃ20年はいるべぇ。はやぐおっきぐなれじゃ(笑)。
平太郎
日本の東北出身で中国語がまったくできないまま中国に来ちゃった無計画男。寒い所と雪かきが嫌で南国広州で定住をほぼ決めている。最近はコピーロボット的な振る舞いの息子に同族嫌悪を覚えながら似たもの親子で一緒に妻に怒られつつも子育てに奮闘中。趣味というかライフワークになりつつあるクラフトビールを片手に夜な夜なビアバーを探し、せこせこリスト作りに励んでいる変人に果たしてまともな人間に育てられるのかと禅問答を繰り返す日々。