中国法律コラム37「従業員の不正について」広東盛唐法律事務所

2019/02/20

私のクライアントでは、従業員が自ら会社を設立し、又は配偶者や親戚などの会社を利用して会社と取引をし不正な利益を得るという事件が多発しています。その取引が市場価格に比して不合理でない場合は、特に問題にならないと思いますが、そういったケースでは、得てして市場価格から逸脱した金額で取引をしているケースが殆どです。今回のコラムでは、そういった従業員を解雇処分とできるか?という問題について解説したいと思います。

 

 

1、法的分析

従業員が不正行為を働いたことを立証できれば、それをもって懲戒解雇ができることができることには争いがありません。問題は、その立証が困難な場合です。その場合、会社は労働契約法39条に従い従業員を解雇することを検討することになります(会社の内部規程に著しく違反したことをもって懲戒解雇する)。

そして、会社の内部規程においては、一般的に副業や兼業を禁止する条項、会社との利益相反となる行為を禁止する条項や、守秘義務を課す条項があると思われます。会社の内部規程において、該当従業員が自己や親戚の会社と取引をするように促すような行為を禁止するような条項があれば、それを根拠に該当従業員を処罰することができます。

一方、内部規程にそのような規定がなければ、中国の労働法令には、そこまで具体的な規定がありませんので、信義誠実の原則に違反したとして処罰をするよりほかなくなります。その場合、従業員の不正行為を十分な証拠をもって立証することができなければ、法的根拠に乏しいものとなり、労働仲裁や訴訟となった場合に会社側が敗訴するリスクが高まるでしょう。

 

 

2、解雇のプロセスについて

まず、従業員に対して退職勧奨をすることを検討できます。従業員が自ら退職をする場合、経済補償金の支払いを要しませんし、従業員が違法解雇を理由に争うことが難しくなるため、この方法が労働紛争が生じるリスクが最も少ない方法であるといえます。

当該従業員が依願退職を拒む場合、前述のとおり内部規程に相応の懲罰規定があれば、内部規程の規定に従い処罰することができます。従業員の行為が懲戒解雇処分に該当するという規定があれば、懲戒解雇処分とすることもできるでしょう。その場合、労働紛争が生じる可能性を考慮して、解雇の適法性を主張するために、次の証拠を収集することが望ましいでしょう。

(1)従業員が内部規程を受領した記録。
(2)従業員に始末書の提出を求める(該当従業員が始末書を書く蓋然性は低いですが、書いてくれれば決定的な証拠となるでしょう)。
(3)本件について説明するよう求める(録音することが望ましい)。

これらの証拠を収集することができれば、解雇処分としたことにより労働紛争が生じたとしても、敗訴するリスクは低いと考えます。

 

 

3、まとめ

中国の法令には、従業員が自ら会社を設立することや、副業を実施すること、会社に親戚の経営する会社との取引を勧めることを禁じるような定めはありません。従業員が不正を働いたことを立証できれば当然解雇処分とすることはできるでしょうが、従業員が不正を働いたことを十分な証拠を持って立証することは困難なケースが多いでしょう。

このようなケースにおいて従業員を解雇処分としたい場合には、自社の内部規程に則り対応をしていくことがベターです。したがいまして、まずは会社の内部規程に副業や独立開業、利益相反関係のある相手方との取引を促すような行為を禁止するような条項が存在するかどうかを確認いただければと思います。そのような条項がない場合は、内部規程の見直しをするべきでしょう。

副業や独立開業を禁じるような条項がない場合でも、会社の秘密保持義務違反に違反した、信義誠実の原則に違反したなどの理由を持って懲戒解雇やその他の処罰をすることは可能と考えますが、労働仲裁、訴訟となった場合に、立証の面で難易度が高くなると思われます。

もし、従業員の不正行為などの問題でお悩みがありましたら、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。

 

以上

 

 


大嶽徳洋

広東盛唐法律事務所
SHENG TANG LAW FIRM
法律顧問
大嶽 徳洋 Roy Odake
行政書士試験合格
東京商工会議所認定
ビジネス法務エキスパート
Tel: (86)755-8328-3652
E-mail: odake@yamatolaw.com

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