中国法律コラム13「ソニー広州工場の売却について」広東盛唐法律事務所

2016/12/19

一、工場売却に伴いストライキ発生
2016年11月、ソニー(中国)有限公司(以下「ソニー中国」といいます)は、広州市に位置するカメラモジュール製造工場であるソニー電子華南有限公司(以下「ソニー電子華南」といいます)の全ての持分を深圳欧菲光科技股份有限公司に譲渡すると発表しました。ソニー電子華南はカメラモジュールの製造を主な業務とする企業であり、従業員数は約4,000人です。ソニー中国は、今回の工場売却は、市場の変化に対応する為の組織再編であるとしています。ソニー電子華南の従業員はこの情報を知った後、直ちに大規模なストライキ、デモ、工場封鎖、出荷妨害を実施しました。従業員の主張は次のようなものであったということです。

「我々はソニーの従業員だ!」、「何の説明もなく勝手に中国企業に工場を売却するな!」、「デモが嫌なら補償金をよこせ!」

そして、具体的な要求事項を要約すると次のようなものです。

「会社が経済補償金を満額支払い全従業員との労働契約を一旦解除した後で、従業員自らに労働契約を再締結するかどうか選択させろ。」

二、中国法の関連規定
従業員らの前述の主張は、法的な根拠を有するものでしょうか? これについては、労働契約法に定めがあります。

労働契約法33条(使用者の状況変更)

使用者が名称、法定代表者、主たる責任者又は出資者などの事項を変更することは、労働契約の履行に影響を来たさない。

三、工場売却に伴い従業員に経済補償金を支払う義務が生じるか?
労働契約法33条によりますと、出資者に変更が生じたとしても、会社の法人格には影響を来しませんので、労働契約は従来通りに履行されることになり、会社が経済補償金の支払い義務を負うことはありません。

したがいまして、ソニー中国がソニー電子華南に対して有する出資持分のすべてを中国企業に譲渡したとしても、従業員に対して経済補償金を支払う義務は生じません。

しかし、出資者が日系の大手企業から中国企業に変更されると、今後の会社運営、展望が大きく変更されることは必至であり、従業員が将来に不安を感じ、これに強烈に反発することも避けがたいものと思います。そして、従業員の主張には法的な根拠がなく、会社に理があるといっても、従業員がストライキ、サボタージュ、デモ、工場封鎖、出荷妨害などを実施すると、会社はとても不利な状況に陥ります。

四、助言
今後、日系企業が中国現地法人を売却するとき、次の対応策を講じるよう助言します。

(1)ストライキに備えて作り溜めをしておく。出荷妨害に備えて完成品を工場外の倉庫に保管しておく。

(2)売却公表時、売却の必要性について合理的な説明を十分に実施し、従業員と良好なコミュニケーションをとることに努め、ストライキ、サボタージュ、工場封鎖、出荷妨害、経済補償金の支払い要求などの問題が生じるリスクを極力軽減する。

(3)持分譲渡の手続きは法令の要求を満たしており、会社には補償義務がないことを説明し、従業員に疑義及び意見がある場合は労働組合などを通して書面で平穏に請願をすることを求める。そして、従業員がストライキなどの行動をとった場合、規則制度に則り懲戒処分とすること、損害が生じた場合には法的手段を講じて責任追及することを強調する。

(4)公表前に、現地の行政機関に協力を願い出る。通常、管轄地域の治安安定のため、労働局、公安局などの行政機関は会社に積極的に協力をするものである。行政機関の人員と良好なコミュニケーションを保ち、行政の助言に耳を傾け、従業員の情緒が不安定なときには行政機関の人員に仲裁役を買って出てもらい、従業員に説明、法解釈を実施してもらう。

五、まとめ
工場の売却(持分譲渡)によって出資者に変更が生じたとしても、従業員に対する補償義務は生じませんが、従業員は将来に不安を感じ、さまざまな補償を求めてくる蓋然性が非常に高いといえます。そして、中国という国では法よりも人情が重んじられる文化があります。メディアの報道によりますとソニー華南電子はすべての従業員に1,000元程度の金員を支払うことによって事態を収束させたということですが、この国では、会社は正論を振りかざすだけでは事態を収束させることは難しく、何かしらの譲歩が必ず必要になることが現状であると思料します。

大嶽 徳洋さん広東盛唐法律事務所
SHENG TANG LAW FIRM
法律顧問
大嶽 徳洋 Roy Odake
中国深圳市福田区福華一路一号
大中華国際交易広場15階西区
電話:(86)755-8328-3652
メール : odake@yamatolaw.com

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