中国法律コラム 23 広東盛唐法律事務所

2017/11/21

中国に進出している日系企業、とりわけ商社においては、営業担当従業員などが自らの会社を設立し、把握している会社の秘密情報を利用して、顧客に対して同様の商品を販売するといったような競業行為が後を断ちません。今月のコラムでは、このような事態が発覚した後にどのように対応すべきかという問題について、実際の事例から解決策をご紹介しようと思います。

一、事例
a社では、営業担当である従業員Bが自らの会社bを設立して取引先cと取引をしていたことが発覚しました。従業員Bはb社の株主であり法定代表人を務めています。従業員Bは、a社の取引先であるc社に商品を販売するために、a社とb社から同時に見積もりを提出していました。また、販売条件及び価格はb社の見積の方がa社の見積よりも有利な条件となっていました。a社は、従業員Bを規則制度への重大違反を理由に懲戒解雇処分としたいと考えています。

二、分析意見
2.1解雇の根拠
関連法令としては、労働契約法に次のような定めがあります。
労働契約法第39条
労働者に次の各号に掲げる一のある場合、使用者は
労働契約を解除することができる。
(2)使用者の規則制度に著しく違反した場合
また、a社の規則制度には次のような内容がありました。
a社の規則制度 第○章×条△項
 従業員は副業、独立開業をしてはならない。
a社の規則制度 第○章×条△項
 従業員に以下の違反行為があった場合、会社は規則制度に著しく違反したとみなす。この場合、会社は労働契約法によって当該従業員との労働契約を解除することができる。

1、副業をし、当業務の完成に深刻な影響をもたらした。
3、会社の守秘義務制度に違反した。
a社の規則制度 第○章×条△項
従業員は当社の守秘義務を厳守するものとする。当社に対する不正競争に参与してはならず、当社の名声及び利益を損なってはならない。

従業員Bが起業をし、会社と競業行為をすることは規則制度における勤務規律、賞罰制度、及び秘密保持制度にかかる条項に違反するものです。a社が従業員Bに競業行為があることを証明できるのであれば、規則制度違反を根拠に労働契約を解除することができます。なお、この場合、懲戒解雇に該当しますので、経済補償金を支払う必要はありません。

2.2懲戒解雇のプロセス
2.2.1まず、従業員に対して依願退職をするように求めることを検討できます(辞表を提出させる)。従業員が自ら退職をする場合、経済補償金の支払いを要しませんし、従業員が違法解雇を理由に争うことが難しくなるため、この方法が労働紛争が生じるリスクが最も少ない方法であるといえます。

2.2.2当該従業員が依願退職を拒む場合、又はa社がこの方法を実施したくない場合、規則制度の規定に従い懲戒解雇処分とすることができます。懲戒解雇処分とする場合、労働紛争が生じる可能性を考慮して、争いとなった時に解雇の適法性を主張するために、次の証拠を収集する必要があります。

(1)従業員Bが規則制度を受領した記録。
(2)従業員Bに始末書の提出を求める。
(3)a社名義でc社に対して商品の見積書を提出する際に、社内の承認手続きを適切に実施していたかどうか。
(4)c社に対して、従業員Bがb社とa社の名義で同時に見積もりを出したことの経緯について書面で説明するよう求める。そして、b社とc社との間に契約などの書面の取り交わしがある場合はその写しを取得する。

これらの証拠を収集することができれば、当該従業員を解雇処分としたことにより労働紛争が生じたとしても、敗訴するリスクは低いと考えます。

三、まとめ
中国の法令には、従業員が副業を実施すること、又は在職中に自らの会社を設立することを禁じるような定めはありません。したがいまして、このようなケースにおいて従業員Bを解雇処分としたい場合には、自社の規則制度(就業規則など)に則り対応をしていく必要があります。したがいまして、まずは皆さんの会社の規則制度に副業や独立開業を禁止するような条項が存在するかどうかを確認いただければと思います。そのような条項がない場合は、規則制度の見直しを助言します。副業や独立開業を禁じるような条項がない場合でも、会社の秘密保持義務違反に違反したなど別の条項を用いて懲戒解雇やその他の処罰をすることは可能と思いますが、立証の面で難易度が高くなると思われます。

もし、従業員の競業行為など不正行為でお悩みがありましたら、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。

盛唐法律事務所
広東盛唐法律事務所
SHENG TANG LAW FIRM
法律顧問
大嶽 徳洋 Roy Odake
行政書士試験合格
東京商工会議所認定
ビジネス法務エキスパート
Tel: (86)755-8328-3652
E-mail: odake@yamatolaw.com

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