尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.59

2022/03/02

会社印鑑の効力問題

Q:会社公印の押印なしに、法定代表者または代理人の署名だけがある場合、これは会社の行為と認められるか?
A:契約などの法律文書に会社公印の押印なしに、法定代表者の署名だけがある場合、「署名=押印」のルールに加えて、法律文書への署名行為は法定代表者または代理人による職務行為と見なすことができるときは、かかる署名を会社の行為と認定することができる。
要するに、会社公印の押印問題の本質は有効な代表権や代理権の有無にあり、会社名義で契約を締結したことを証明できる場合、会社の行為として認めることができ、その法的結果も会社が引き受けなければならない。

Q:契約の内容を確定する前に、空白(白紙)の契約書に先に公印を押印し、その後契約が締結された場合に、公印の示す会社が契約締結主体として契約責任を負うべきか?
A:実務上、契約の内容を先に決めてから公印を押印することが一般的である。空白(白紙)の契約書に先に公印を押印し、その後契約が締結された場合、その契約が無効であると直接判断するのではなく、押印済みの空白の契約書を保有している者(保有者)と会社との間に代理関係があるか否かを厳格に審査し、当該契約の効力が会社に及ぶか否かを総合的に判断する必要がある。
保有者が代理権を有している、または当該契約の取引において第三者が保有者に代理権があるものと合理的に信じた場合、かかる空白の契約書に追記された契約内容は会社を拘束することになる(表見代理)。
なお、保有者に代理権がない場合、または保有者に代理権があることを認定するにその証拠または理由が不十分である場合、「無権代理」と見なして処理する。

Q:捺印した印鑑の種類と法律文書が必ずマッチングしないといけないか?
A:捺印した印鑑の種類と法律文書が必ずマッチングしないといけないわけではない。
会社印鑑は、公印(公章)、法定代表者印、財務印、契約専用印、発票専用印のほかにも、人事、営業、販売部門などで使用する印鑑があり、法律文書の内容とそこに押印する印鑑はマッチングすることが一般的である。例えば、契約などの法律文書に発票専用印を押印すること自体、取引慣習に合わず通常はあり得ない。
最高人民法院の裁判観点によると、「借金契約書」に「特定工程項目専用印」を押印することは、会社の印鑑使用範囲を超え、その後も会社の承認を得られなかったことから、会社がかかる借金契約に合意をしたものと認めることはできない。
もっとも留意すべきことは、最高人民法院が会社印鑑の特定目的を超えた印鑑使用行為の有効性を認めなかったのは、「当該社印の使用者が代理権を欠いている」からである。一方で、会社印鑑の使用者が代理権を有している場合は、仮に印鑑の使用範囲を超え、契約とマッチングしなかったとしても、直ちに「契約無効」と見なすべきではない。

Q:捺印した印鑑が、政府関連主管機関に登録した印鑑と異なるという理由でこれを「偽造印鑑」と判断し、「契約の不成立または無効」を主張できるか?
A:印鑑が政府関連主管機関に登録されていないという理由のみをもって、当該印鑑を「偽造印鑑」とみなし、関連契約書の効力を否定すべきではない。
取引において、相手取引先に「捺印した印鑑の登録有無の審査義務を負わせるべきではない」というのが通説であり、登録されていない印鑑を他の契約書または有効な法律文書で使用したという証拠が相手取引先にある場合はなおさら当該相手取引先の信頼を保護すべきである。
実務において、契約を締結する前に契約当事者の押印する印鑑の種類、印鑑の保有者とその代理権、署名権者(法定代表者または授権代表)などを事前に確認することが望ましく、締結現場において双方当事者立会のもと、契約に「公印押印+代表署名」をすることが安全であるのは言うまでもない。


zhuojian

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尹秀鍾 Yin Xiuzhong尹秀鍾 Yin Xiuzhong
卓建律師事務所深圳本部 パートナー弁護士、法学博士 (慶應義塾大学)

【主な業務領域】
外商投資、移転/撤退、知財侵害、紛争解決

 

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