アナシス人事労務誌上相談「評価フィードバックがうまくいかなかった時」
Vol.77問い:新規赴任してきて、すぐに評価・賃金改定のフィードバックを実施しました。わけの分からないなかでやっていたので、納得してもらえていないかもしれません。評価フィードバックの基本やその後のフォローはどうしたらよいのでしょうか?
黒崎:余りいい話を聞かない昨今、解雇などもある一方で一部の職種では離職や採用難も続くなど先の読みにくいのが今年です。年に一度しかない評価フィードバックであれば、なおさらその重要度が増した年だったのではないかと考えます。新しく赴任された方にとって、いきなりの賃金改定やフィードバックは難度が高かったことでしょう。
そもそも評価の目的は処遇の決定だけではありません。このQ&Aでも何度も書いてきましたが①処遇の決定②人材開発③目標達成のための日々の軌道修正により、経営目標を達成していくためのものです。昇給・賞与など金銭的報酬を決める元となる評価であり、当地ではそこが重要であることは間違いありませんが、人材育成と次の目標達成の元ともなるものです。
たった一度の評価とそのフィードバックだけで終わるものではありません。「評価はいつでもどこでもするもの」なのです。
フィードバックの基本ステップは次の通りです。
ステップ1.事前準備
ステップ2.面談開始(アイスブレイクと面談目的の明示)
ステップ3.当初目標の再確認(必ず部下に振り返らせる)
ステップ4.部下の自己評価の確認
ステップ5.上司側の評価結果を論理的に丁寧に伝える
ステップ6.一致点とずれを話し合う
ステップ7.今後の課題を確認し、支援を約束する
この最後のステップで、メンバーの次の期間の課題・目標の方向性を決めます。残された課題の解決や身に付けるべき能力やスタンス、今年度の方針や戦略上の目標などを話し合って設定します。そして上司であるあなたが、そこに必要な支援を惜しまないと伝えることも重要となります。
新規に赴任された方は前任者による評価のため、やりにくいことも多かったでしょう。しかし反論されても一度決めた評価の変更はできません。自分で評価した以上に、その後のフォローアップが重要になります。
フォローアップで大事なことは、まず目標設定の再確認です。ここでは行動評価などの項目も再度確認しておく必要性を感じます。自社の評価制度が機能しているのかどうか。問題の多くはその運用にあります。評価が年に1回のペーパーワークになってしまうかどうかは、スタート時点にかかっているでしょう。成果を上げられる適切な目標は、本来部下達が「自走」できるものです。そしてそこに日常からの評価が重要です。ここでいう評価とはスコアをつけることではありません。出来ているか出来ていないか。行動しているかしていないか。計画通りか否か。これらの日常のフィードバックこそが、最後の評価への納得性を生みます。このフィードバックとは、耳の痛いことも良いことも伝えて軌道修正をはかりながら、部下と組織が成果を出していくこととなるものです。
さて、その評価も実はなかなかする機会は見つけにくいものです。そこで、もっと身近にできることは「承認」です。昨今世代間ギャップも大きく、また評価結果でそれほど昇給に差がつかないなどの事情がある場合、「評価されたい」よりも「認めて欲しい」という人も増えたのではないかと思われます。古典的名著『人を動かす』では、人は自己の重要度を満足させたいものだとあります。継続的に承認されていくということで、本人は自己の重要性を感じ取ることができ、エンゲージメントにも影響すると言われています。
「承認」とは「心の報酬」を与えることだと考えます。金銭的報酬が非常に重要である当地ですが、原資に限りがある以上、この非金銭的報酬は有効だと思います。「評価」と固く考えるとなかなか結果が出なかったり、良いプロセスができていなかったり、評価の機会はそれほど多くはありません。それでも「いつでもどこでも評価する」という意味は、毎日の「承認」に他なりません。
「承認」は6段階あると弊社では定義しています。
1.結果そのものへの承認
2.結果が出たプロセスへの承認
3.顕在化された行動・態度・姿勢への承認
4.目標達成への意志のある態度・姿勢への承認
5.その意識への承認
6.存在そのものへの承認
下へ行けば行くほど承認の機会が増大します。継続的に実施できるのです。
評価後のフォローアップとは、目標の再確認と日常のフィードバック、「いつでもどこでも評価=承認」です。そして評価制度運用の成否は、経営層の意志にかかっています。
<黒崎幸良 Anaxis Ltd. グループCEO>
86年より一貫して人事系業務に就き、92年より中国ビジネス、02年香港で独立。香港華南のベテランコンサルタントが集結して2016年にAnaxis Ltd.を創業、香港・深セン・広州・上海に拠点を持つ人事労務コンサル会社を経営。
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