目から鱗の中国法律事情 「中国で仲介業者から得た情報を勝手に使用した裁判事例①」
中国の法律を解り易く解説。
法律を知れば見えて来るこの国のコト。
Vol.92 中国で仲介業者から得た情報を勝手に使用した裁判事例 その1
売買をするときに、適当な買い手や売り手を見つけるために、仲介業者に依頼を出すことはよくあることです。しかし、その仲介業者が持ってきた情報だけを勝手に使ってしまった場合はどのようになるのでしょうか。今回から、このような事例について見ていきましょう。
【事例】被告Aが家を買おうと思い、原告B社に売家情報の探索を委託した。B社は家・甲を見つけ、その情報をAに提供した。ところがAはB社を経由せず、甲の持ち主と直接売買契約を結んでしまった。B社は既にAと「B社が提供した情報を基に、悪意をもって売り主と直接契約をした場合、当該家の価格の1%の違約金を支払うもの」との「確認書」を作っていたと主張し、それを基に甲の価格100万元の1%に当たる1万元の違約金をAに請求すべく人民法院(裁判所)に提訴した。
裁判が始まるとAは以下のように主張しました。「甲の売り主は多くの仲介会社に売却の委託を出していた。B社は家の情報を独占しているわけではないし、独占的に販売代理をしているわけでもない。別の所からも甲の情報をもらっており、決してB社からの情報を利用したわけではない」。後に人民法院(裁判所)は別の仲介会社C社もAに甲の情報を、さらにD社もAの妻に甲の情報を提供していたことを確認しました。
そして、人民法院(裁判所)は、当該違約金の支払いは認められたものの、Aは上告し、上告審は「違約金を支払う必要はない」と判断しました。理由は以下の通りです。多くの者が甲の情報をAに提供していたので、仮にB社が甲の情報をAに提供しなくても、Aは甲の情報を得ることができたためである。
つまり「B社が提供した情報を基に、売り主と直接契約」したという違約行為そのものが存在しないという判断であったことになります。実際にその通りであった可能性は極めて高いのですが、このような判断がまかり通ってしまっては、仲介業に従事する者は一方的に不利な状況に置かれることになります。
(続く)
〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら講演活動などもしている。韓国・檀国大学校日本研究所 海外研究諮問委員や非認可の市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。FM西東京 84.2MHz日曜20時~の「Future×Link Radio Access」で毎月1、2週目にラジオパーソナリティもしている。Twitterは@koji_xiaozhi