目から鱗の中国法律事情 「中国民法典における契約②」
中国の法律を解り易く解説。
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Vol.81 中国民法典における契約 その2
前回から、中国民法典(2021年1月1日施行)における契約の規定を見ています。今回は2回目です。
契約の成立
中国民法典第471条は、「当事者が契約を締結するとき、申込、承諾の方法もしくはその他の方法を採ることができる」と規定しています。契約は、複数人の合意で成立するものなので、まず契約を締結することそのものに対し申込が行われ、それに対する承諾があって契約が成立することが原則となります。しかし、両者が合意すれば、例えば代金を支払ったときに契約が成立するなど、申込・承諾以外の要件によって契約が成立するようにすることも可能となります。これが「その他の方法を採ることができる」という規定です。
続いて、中国民法典第472条は「申込とは、他人と契約を締結するための意思表示で、その意思表示は、次に掲げる条件を満たさなければならない。①内容が具体的に定められていること。
②申込者が承諾を受ける意思を表明するもので、申込者はその意思表示に拘束される」と規定しています。「申込」と簡単に言いますが、中国民法典ではこの「申込」についても明確に定義づけを行っています。そして、どのような「申込」も必ず「契約の申込」にはならず、「内容が具体的に定められている」などの要件が課されています。
申込の効力の発生時期
中国民法典第474条は、「申込の効力発生の時期は、本法第137条の規定によるものとする」と規定しています。なお、中国民法典第137条は「(第1項)対話による意思表示は、相手がその内容を知ったときに効力を生ずる。(第2項)対話ではない意思表示は、相手方に到達したとき効力を生ずる。対話ではない方法による電子形式の意思表示は、相手方が特定の電子システムを指定したとき、当該電子システム内にそのデータが届いたとき効力を生ずるものとする。特定のシステムについて指定がないとき、相手方がその電子システムにデータが届いたことを知ったときもしくは知ることができたときに効力を生ずる。当事者が、電子メッセージでの意思表示の効力について別段の定めをしたときは、その約定によるものとする」と規定しています。
つまり、申込は、原則として相手がその内容を知ったときに効力を生ずるが、特定の電子システム上で意思を確認するとあらかじめ約束していた場合には、そのシステムに申込内容が含まれたデータが到着したときに効力を生ずるとしているのです。
この申込が有効になる時期は、単純なようで大きな問題となります。「契約の成立」で述べた通り、中国民法典第472条によって「申込者はその意思表示に拘束される」ため、申込が有効となったら、申込をした者も自由に申込を撤回することができなくなるためです。(続く)
〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら講演活動などもしている。韓国・檀国大学校日本研究所 海外研究諮問委員や非認可の市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。FM西東京 84.2MHz日曜20時~の「Future×Link Radio Access」で毎月1、2週目にラジオパーソナリティもしている。Twitterは@koji_xiaozhi