目から鱗の中国法律事情 Vol.36

2019/10/09

中国での契約の違約責任の免責事由 その3

今まで2回にわたって、中国での契約の違約責任の免責事由を 見てきました。今回もその続きです。

(4)違約責任の免責のその他の法定事由(続き)
 前回、貨物運搬の契約を締結したものの、当該預かった貨物の性質から自然発火した場合や合理的な損耗が発生した場合には 違約責任が免責されると説明しました。(中国の契約法(原文は 「合同法」)第311条)。この他にも、モノを預かる契約を結んだ時に、預かり品の性質から、期間を超えたため、預かり品が変質、破損した場合にも違約責任が免責されるとしています(契約法第 394条)。

なぜこのような違約責任の規定があるのか
 3回にわたって中国での契約の違約責任の免責事由を見てきましたが、よく考えて読むと、どれも当たり前のことを言っているように見えます。特に、前回「相手方の過失の場合」には免責されると説明しましたが、今回も預かった貨物が自然発火した場合や預 かったモノ自身の性質で変質した場合には免責されるとも説明し ました。このような「自然発火するモノ」や「自動的に変質するモノ」を預けること自体が、預けた側の過失のようにも見えます。つまり、 同じことを何度も繰り返して述べているようにも見えるわけです。
 しかし、このように若干くどいのが中国の民法の特色でもある のです。何故かと言えば、中国にはもともと民法はありませんでした。古代中国では、法律は皇帝が民衆を支配するための道具として作られていました。このため、民衆同士の問題を解決するための法律、つまり民法は作成する必要はないものと考えられていた のです。中華民国時代になって民法が初めて作られましたが、その後「民衆の間に取引関係は存在しない」という前提の社会主義 国家となったために、再び中国では民法の制定が頓挫します。中国が本格的に民法導入ヘ動くのは、1980年代の改革開放の始まりによってでした。つまり中国の民法は歴史的に非常に新しいのです。しかも、民法の伝統を持っていないため、歴史的背景に縛ら れることなく貪欲に外国の民法を参考にすることができたと言われています。このため、外国で起こった事例を参考に、いろいろな 論点を民法(契約法)に導入したため、条文構成がかなりくどいというのが、現在の中国民法の特色の一つと言えるまでになっているのです。

約定の免責事由
 今まで説明してきたのは、あくまで「法律上の免責事由」です。あらかじめ契約で「この場合には免責する」と決めておけば、その契約に限り、あらかじめ決めた理由も免責事由になります。

 


高橋孝治〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員

中国法研究を志し、都内社労士事務所を退職し渡中。中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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