目から鱗の中国法律事情 Vol.67

2022/05/11

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

中国で個人情報保護法が施行 その3

今シリーズでは、2021年11月1日から施行されている中国の個人情報保護法(中国語原文は「個人信息保護法」)について見ています。前回までで、中国の個人情報の定義や規制内容などを見てきました。今回は、やや応用的な内容を見ていきます。

憲法上の根拠はない?
中国の個人情報保護法第1条は以下のように規定しています。「個人情報に関する権益を保護し、個人情報の処理活動について規範し、個人情報の合理的利用を促進するために、憲法に基づき、本法を制定する」。しかし、残念ながら中国憲法には、個人情報保護に関する規定や個人情報を流布させてはならないとするプライバシー権などについては規定がなされていません。中国の法律はだいたい第1条に「憲法に基づき、本法を制定する」と規定しています。個人情報保護法も、そのような他の法律と同じように規定したのでしょうが、中国憲法上に個人情報やプライバシーに関する規定がないにもかかわらず「憲法に基づき、本法を規定する」という基礎がない上に法律を制定したという状態になっていると言えます。スクリーンショット (1149)

政府の情報収集は?
本シリーズ第1回では、これまで中国では社会管理のために国家が積極的に市民の情報を集めていたと述べました。それでは、個人情報保護法の制定で、もう国家が市民の情報を集めるということはないのでしょうか。
これについては、本シリーズ第2回で、個人情報を処理できる場合について述べましたが、その中で、個人情報を処理でき場合には、③法定の職責または法定の義務の履行に必要な場合や⑦法律、行政法規が規定するその他の場合があると述べました。これらの規定は、結局、法律上職務や義務が定められていれば個人情報の処理(個人情報の収集、保存、使用、加工、伝達、提供、公開、削除など)は、本人の同意を得なくてもできるとしているいうことです。ということは、このような政府が個人情報を収集できることを、法律上の職責にしたり、法律や行政法規に規定すれば、政府も自由に個人情報の収集ができることになります。そして、今のところ、政府が本人の同意なく個人情報の処理をできると直接規定した規定はありません。しかし、本シリーズ第1回でも述べましたが、中国では「社会主義国家として社会管理のために市民の情報を集めている」ため、中国の社会制度は社会主義制度であるとしている中国憲法第1条第2項などが既に政府が自由に個人情報の収集などをできるとしていると解釈する可能性はゼロではありません。
後半は、かなりこじつけ的な法解釈をしましたが、あくまでこのような解釈をしてくるという可能性を示すものです。
単に個人情報保護法が施行されたと言っても、法律はその社会独自の事情を反映して運用がなされるものです。単純に「日本と同様か」ではなく、どんな社会の法なのかもおさえて評釈することが重要です。


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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