目から鱗の中国法律事情 「中国で仲介業者から得た情報を勝手に使用した裁判事例②」
中国の法律を解り易く解説。
法律を知れば見えて来るこの国のコト。
Vol.93 中国で仲介業者から得た情報を勝手に使用した裁判事例 その2
今シリーズでは、仲介業者に依頼しているにもかかわらず、仲介業者から得られた情報だけを勝手に使って契約を進めた場合はどのようになるのかを見てきました。今回は、前回の続きです。
【事例】被告Aが家を買おうと思い、原告B社に売家情報の探索を委託した。B社は家・甲を見つけ、その情報をAに提供した。ところがAはB社を経由せず、甲の持ち主と直接売買契約を結んでしまった。B社は既にAと「B社が提供した情報を基に、悪意をもって売り主と直接契約をした場合、当該家の価格の1%の違約金を支払うもの」との「確認書」を作っていたと主張し、それを基に甲の価格100万元の1%に当たる1万元の違約金をAに請求すべく人民法院(裁判所)に提訴した。
前回で、この事例では結局原告B社は敗訴、つまりAは違約金は支払う必要はないとの判断がなされたと説明しました。人民法院(裁判所)は、例えAがB社が情報提供した甲の持ち主と契約したとしても、それはB社から提供された情報を用いたとは必ずしも言えないと判断したのでした。
Aの立場からすれば納得いく判断と言えますが、仲介業者側にとっては非常に厄介な判断と言えます。自身が委託契約に従い適切な情報を提供しても、報酬が受け取れない可能性があるためです。しかし、この事例は、最高人民法院が「他の裁判でも参考にすべき事例」に指定しています。そのため、中国で、類似の判断は出やすいものになっていると言えます。
中国は、社会主義国家として、業者よりも一般市民に有利な判断をすることが多く見られます。この事例もそのようなケースの一つと言えるかもしれません。
中国で仲介業務を行う場合には、まずその仲介が自社だけに依頼しているものなのか、他社にも依頼を出しているのか、また提供する情報が自身を通じなくても一般的に入手できる情報なのかを確認することが重要と言えるでしょう。もしかすると、情報を提供しても、仲介料はおろか違約金すら取れない可能性も中国ではあるということになるからです。
〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら講演活動などもしている。韓国・檀国大学校日本研究所 海外研究諮問委員や非認可の市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。FM西東京 84.2MHz日曜20時~の「Future×Link Radio Access」で毎月1、2週目にラジオパーソナリティもしている。Twitterは@koji_xiaozhi