中国法律事情「補償金について」高橋孝治

2015/08/18

中国の法律を解り易く解説。法律を知れば見えて来るこの国のコト。

中国法律事情2損失を与えていないのに補償金を支払う?
補償金と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。相手に損失を与えたときに支払う金銭?その通りです。しかし、中国では生活の中で、相手に損失を与えていないにも関わらず補償金を支払わなければならない場合があることをご存じでしょうか。
中国の侵権責任法第87条には以下のように規定されています。なお、侵権責任法は日本語では「不法行為責任法」と訳されることが多いようです。
「建築物内部から物品が投げられまたは建築物の上から物品が落下して他者が損害を被った場合で侵害行為を行った者が確定できなかった場合は、自らが侵害行為者ではないと証明できた者を除き、加害建築物の使用者がこれを補償する」。この条文は読んだままの効果です。建築物から物品が落下し、その原因となった者が分からない場合には当該建築物にいる落下させることが可能だった者全員で補償金を支払わなければならないのです。
これについては実際に中国で起こった事例がありますので、具体的に説明しましょう。あるマンションの窓から重いガラス製の灰皿が投げ出されて、通りを歩いていた人に当たり、その人がケガをしました。しかし、その灰皿を投げた人が誰なのかが分からず、「投げることができた人」全員で補償せよと人民法院(裁判所)が判断しました。このマンションには22人の居住者がいましたが、灰皿が投げ出されたとき外出していたことが証明できた者、部屋の位置から灰皿をその位置に投げることが難しいと思われる者以外の20人が共同して約18万元の補償金を支払いました。
灰皿を投げていない人にとっては、自分は悪いことをしていないのに、なぜ補償金を支払わなければならないんだと思うところですが、中国ではこれが法律通りの結果なのです。日本ではこのような場合には被害者が加害者が誰なのかを証明しなければなりません。つまり日本では誰が加害者か分からない場合には、補償金を取ることができないのです。この点、「加害者のみ」に補償を負わせ、加害行為をしていない人が補償金を支払うことのないようにする日本と、「加害者以外」も補償を支払うことで被害者の補償を充実させる中国と対比できるでしょう。しかし、これは中国ではの集合住宅に住んでいる場合、「ただ集合住宅に住んでいる」というだけで補償金支払いのリスクがあること言うことです。このあたりのことはしっかりと知っておいた方がいいでしょう。
この事例ではマンションの話でしたが、法律は単に「建築物」としかいっていないので、商業ビルの一テナントである会社にも同じリスクがあると言えます。

中国法律事情※本記事の内容は筆者(高橋孝治)が講師を務めた「中国で家を借りる時の法的注意事項」(2014年2月22日北京にて実された「専門家による無料セミナー」の一項目・主催:北京日本人士業連盟)の講演内容の一部を再構成したものです。

中国法律事情目から鱗の〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
中国法ライター、北京和僑会「法律・労務・税務研究会」講師。都内社労士事務所に勤務するも中国法に魅了され、退職し渡中。現在、中国政法大学博士課程で中国法の研究をしつつ、中国法に関する執筆や講演などを行っている。行政書士有資格者。特定社労士有資格者。法律諮詢師(中国の国家資格で和訳は「法律コンサル士」)。
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