尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.52
社内規則制度を制定する際の注意事項(下)
(前号から続き)
労働紛争事件を審理する際の根拠規定となるための要件
労働紛争審理解釈(2021)第50条第1項によれば、使用者が労働法第4条の規定に基づき、民主的な手続を通じて制定した規則制度が、国家の法律、行政法規及び政策規定に違反しておらず、かつ労働者に対し既に公示している場合、人民法院は当該規則制度を双方の権利義務を確定する際の根拠とすることができます。
使用者の規則制度は、使用者による労働契約の解除権を含む自社の労働者に対する雇用管理権を有効に行使するための大変重要な規定であることから、その内容の合法性と合理性を保障すると同時に、以下の方法などにより、将来生じ得る労働紛争の法的リスクを予防または軽減する必要があります。
➀民主的な手続の履行方法
実務上、使用者側で用意した規則制度の一部内容に反対意見を提出し、使用者の意見または説明に頑なに反対する労働者が従業員全体の中で少数を占めていると確認できる場合は、当該規則制度の内容の合法性と合理性を前提に、従業員代表大会または従業員大会の表決にかけて、大多数の従業員の同意により可決し、当該規則制度を実施することができます。
上記の反対意見を提出した労働者が従業員全体の中で半分以上またはそれ以上を占めていると確認できる場合などにおいても、使用者が労働者または労働組合の意見を必ず受け入れなければならないことではないと解されるため、使用者は意見徴収及び協議の過程を経た後、当該規則制度を実施することができます。ただし、集団労働紛争が発生する可能性が存在することから、規則制度の強硬実施において、慎重な判断及び関連手続履行に関する証拠の事前確保などが必要になります。
②公示または告知方法
労働者に対する有効な公示または告知方法としては、使用者の規則制度または重大事項を制定、改正または決定する際、労働者全員から当該規則制度または重大事項の制定、改正または決定に関する手続、内容の確認並びに遵守の約束(誓約)に関し、署名をしてもらうことが一番安全なやり方です。
また、規則制度に関する社内研修会、勉強会などを定期的に開催し、労働者に熟知させると同時に、これに関する証拠(出席した労働者及び使用者側の人員が署名確認した書類及び録画データなど)を残しておくことも有効な方法です。
③規則制度の内容と労働契約の内容が一致しない場合の処理
使用者が制定した社内規則制度が、労働契約で約定した内容と一致しない場合、労働者が労働契約の約定を優先的に適用するよう請求した場合、人民法院はこれを支持しなければなりません(労働紛争審理解釈(2021)第50条第2項)。
つまり、同一事項につき、使用者の規則制度と労働契約の内容が一致しない場合は労働契約を優先的に適用することになりますので、労使双方間で労働契約の内容を約定する際は特に注意をする必要があります。
実務上、使用者側から労働者に労働契約を提示することが一般的ですが、使用者はこのような主導権を効率的に行使すべきです。すなわち、使用者所在地政府部門の推薦する労働契約の雛形などをそのまま自社用に回すことは避けるべきであり、自社の実際状況に基づき、使用者所在地(現地)顧問弁護士の協力のもと、労働契約の内容を独自に整備するといった視点が必要です。
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尹秀鍾 Yin Xiuzhong
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