「人格形成に重要な幼少期」コラム:2分で読める武士道
世界中で注目されている日本人特有の性格や行動の数々。
それらの由来は武士道精神にあった。
しかし、肝心の日本人にその武士道精神が浸透していないのが日本の現状である。
筆者が外国生活を通して感じた日本人の違和感を「武士道」や「葉隠」などの武士道関連文献をもとに紐解いていく。
第34回 私が女を知ったのは幼稚園の頃だった
「人通りを見て案じているのだ。嘆かわしいことに、すでに肥前の槍先に弱みがしみついたと思われる。その方などは心得ていなくてはならない。往来の人を見ると、たいてい上まぶたを下におろし、地面を見て通る者ばかりになった。気質がおとなしくなったがゆえである。勇むところがなければ、槍は突けないものだ。律義さや正直さばかり身につけて、心が縮こまっておっては、男のわざは成せぬ。時には虚言さえも言い散らし、見栄を張ってかかるほどの気概が、武士に役に立つのだ」と仰せられた。
(葉隠(上)講談社学術文庫 )
一般的に人間の人格は3歳から10歳くらいの期間で確立すると言われている。ということは、幼稚園時代は人間形成の初期に当たり、子どもにとっては非常に大切な時期なのである。では幼稚園時代がどれほど人間形成に影響を及ぼすのか、実際に自らの幼稚園時代を振り返りながら考えてみた。
1.恥を知る
夏に幼稚園でお泊り会をした時に、みんなは浴衣を着ていたのに自分だけ甚兵衛で恥ずかしかったこと。
2.女を知る
色鬼で「ピンク!」と言われたときに意外にピンク色のものが見つからなくて、とっさにピンクのエプロンをつけていた先生(女性)の胸を鷲掴みにして「いやだ~エッチ!」と言われたこと。
3.悲しみを知る
終礼の際に友達としゃべっていたら担任の先生に「もう並ばなくていい、あっちに行っていなさい!」と突き放され気味にすごい怒られたこと。当時から比較的文武両道で優秀だった私は普段怒られたことがなかったので、その日怒られたことがすごい悲しくて、「先生に嫌われた」と夜になっても布団の中でずっと悲しんでいた。
4.恐怖を知る
ある雨の日にマンホールの上で滑って転んだこと。突然足を滑らせて転ぶあの感覚がすごい恐怖で、それ以来今でもマンホールの上は絶対に歩かないと決めている。
自らの体験をもとに検証した結果、幼少期における感情、特にネガティブな方面に触れるような経験はその人の性格に少なからず影響を及ぼすという結論が出た。上記に挙げたようにネガティブな思い出は30年経った今でも思い出せるが、意外なことに嬉しかった、楽しかった思い出はあまり記憶に残っていない。
そして、自らが幼稚園に通っていたあの日々から時は流れ、2023年6月、自分の娘が幼稚園を卒園した。
この2年間(娘の通うインターは2年制)、コロナの影響で親が参加できるようなイベントは数回しかなかったので、娘が幼稚園でどんな様子なのかはほとんど知ることができなかった。
本人の口からは幼稚園大好き!という言葉を時折耳にしたが、果たして娘は幼稚園で何を学んだのか…?という疑問は否めなかった。
卒園式当日、子どもたちが歌とダンスを披露する機会があった。これまで演劇会や発表会などのイベントもなかったので、この日が私たち親にとって子どもたちのパフォーマンスを幼稚園で見る最初で最後の機会だった。
曲目はトイストーリーの「You’ve got a friend in me」。しかし、サビの部分以外は子どもにはちょっと難しそうな歌詞とリズムだったので、子どもたちは予想以上に苦戦していた。
皆が苦戦を強いられ、うつむき加減でもぞもぞしている中、1人の子どもの声がやたら異彩を放っていた。
それが娘だった。
孤軍奮闘と表現するに相応しい歌いっぷりと踊りっぷりで周りの親御さんたちからも、「1人だけ声が凄かったね」「彼女のおかげでパフォーマンスが成り立ったわ」と称賛された。
私が娘の歌いっぷりを観ていて感じたことは、この歌が好きだから歌うとか嫌いだから歌わないとかではなく、これは私たちの卒園作品なんだからみんな最後まで歌おうよという責任感であった。
娘が終始顔を上げ、口を大きく開けて、時に眉間に皺を寄せながら腹の底から歌いあげる姿に、武士道精神を見い出したのはおそらくあの場で私だけであったにちがいない。
30年後、娘が自らの幼稚園時代のことや卒園式のことを覚えているかどうかは分からない。
しかし、娘4歳は最後に果たすべき責任を立派に果たして幼稚園を卒園したことは紛れもない事実として、親である妻と私にとっては一生忘れることのない思い出となった。
筆者プロフィール
宮坂 龍一(みやさか りゅういち)
東京都出身。暁星高校、筑波大学体育学群卒業。
香港の会社、人事、芸能、恋愛事情にうるさい。