2分で読める武士道 第14回

2021/07/21

2分で読める武士道

 

世界中で注目されている日本人特有の性格や行動の数々。
それらの由来は武士道精神にあった。
しかし、肝心の日本人にその武士道精神が浸透していないのが日本の現状である。

 

筆者が外国生活を通して感じた日本人の違和感を「武士道」や「葉隠」などの武士道関連文献をもとに紐解いていく。

 

 

 

 第14回 ふと思う 礼儀作法は なぜ大事?

 子どもたちに柔道を教えているとき、何かと礼儀の話になる。私自身「よし、今日は子どもたちに礼儀作法を教えるぞ!」と意気込んでクラスに臨んでいるわけではないのだが、算数や英語の授業とは違って柔道みたいなクラスでは椅子も机もないし、子ども同士は距離感が近いのでどうしてもだらけたりふざけたりする瞬間が多くなる。もちろんある程度のじゃれ合いは問題ないのだが、中にはクラスの進行の妨げになるようなだらしない態度を取る子どもが絶対にいるので、そういう場面が訪れると自然と礼儀について子どもたちの前で話さなければならない。

 しかし、ふと最近思うのは「なぜ、礼儀が必要なのか?」ということである。柔道クラスの親御さんたちにもよく「子どもに厳しく礼儀を教えてあげてください」とお願いされるのだが、なぜ私たちは事あるごとに礼儀だマナーだということを口にするのだろうか。なぜ礼儀が必要か?なんていうのはもしかしたら愚問かもしれない、なぜなら日本人に限らず誰しもが「礼儀は大事」ということを漠然と認知しているからだ。外国人が日本が好きな理由ランキングでも「日本人の礼儀正しさ」は常に上位にランクインしているくらいである。もちろん私も「礼儀は大事」派だ。ただ、子どもたちに柔道を指導している身としては、やはりもう少し礼儀の本質について知る必要があるのではないかと、「礼儀」という言葉を子どもたちに投げかけるたびにそう感じるのである。

 

「礼道の要は心を練るにあり。礼をもって端坐(たんざ:正座のこと)すれば兇人(きょうじん:凶暴な人)剣をとりて向うとも害を加えること能(あた)わず」(『武士道』岩波文庫より)

 

 一般的な礼儀の正しさとは、挨拶の仕方、歩き方、座り方、食事の作法などその人の社交的態度のことを指し評価されるのだが、これら一つ一つのことは全てその人の意思をもって実行される。最高級スーツで着飾る富豪やナイスバディの美女たちの外見がいかに素晴らしくても、その人に礼儀に対する意思がなければ礼儀正しくはなれない。礼儀とは精神が自分の肉体をいかに支配できているかを表現しているもので、その支配が極限まで高められたとき、敵も味方も含めた見る者たち全てを圧倒するのである。

 

 礼の最高の形態は、ほとんど愛に接近する。吾人(ごじん:私)は敬虔(けいけん:うやまい)なる心をもって、「礼は寛容にして慈悲あり、礼は妬まず、礼は誇らず、驕らず、非礼を行わず、己の利を求めず、憤らず、人の悪を思わず。」と言いうるであろう。(『武士道』岩波文庫より)

 

 礼儀とはまさにその人の「落ち着き」に直結する。落ち着きを保つためのコツは正当なる事物に対して正当なる尊敬の意を示すことができるかどうかというところに尽きる。慈悲の心があれば弱者を馬鹿にすることはない、相手の強さを認め自分の弱さを認めることができれば妬んだり憤ることもない。礼儀正しくすることは心の平静、思考の安定、動作の物静かさを保つこと、そしてこれらのことがその人のパフォーマンスを向上させ最大限に引き出してくれることは間違いない。

 

 台湾人は、よく日本人を批評して「ウーレー・ブーテー」(有礼無体)という言葉を使います。字義通りに解釈すれば「礼があって体がない」という意味でしょうか。(中略)実体を伴わないということは、表面的な形で礼を表現しても、礼を尽くす目的が何であるか分からない状態です。(『武士道解題』李登輝著より)

 

 礼儀とは本来精神による肉体の完全なる支配が必要とされたが、周りの人々に自らの礼儀を披露するのは自分の肉体なので、礼儀を人々が重んじれば重んじるほど、見せかけだけの偽物の礼儀の横行が後を絶たなくなってしまった。

 武士道を読むと精神の成長をもって礼儀の完成とされてきたようだが、実際のところ精神の成長は肉体の成長に比べて簡単ではない。だからこそ、特に子どもたちには昔から礼儀を教えることで精神の成長を促そうと試みられてきたのでないだろうか。そしてこの伝統は今の親たちにもしっかりと受け継がれている。礼儀をもって精神の成長を完成させる。順序としては逆になるが、それも大いにありだと思う。見せかけの礼儀も子どもの頃から繰り返えすことで本物になるときが来るだろう。

 


profile筆者プロフィール

宮坂 龍一(みやさか りゅういち)
東京都出身。暁星高校、筑波大学体育学群卒業。
香港の会社、人事、芸能、恋愛事情にうるさい。

 

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