僕の香妻交際日記 元旦から三宮のステーキ店でキレてしまった話

2024/01/31

P16 HK Wife_727第87回

2024年1月1日、三宮に本店を構える老舗ステーキ店で新年最初の夕食を家族で堪能した。

店員の態度が急変
私が店員の異変に気が付いたのは、目の前に広がる鉄板の上でシェフが最後のガーリックライスを作り終えたころのことである。

私が最後の肉一切れを口に入れると同時にマネージャーらしき人が「先にお会計を」と言ってきたので、支払いがてら「この辺にラウンドワンありましたっけ?」と聞くと無表情で「ちょっと分かりません」と何ともぶっきらぼうな回答が返ってきたのだ。一瞬、おかしな雰囲気を感じたが、まだ妻のお皿には少しの肉や野菜とドリンクも残っていたので「お会計済ませたし、ゆっくり食べて大丈夫だよ」と言って私は娘をトイレに連れて行った。
そして数分してトイレから帰ってくるとなんとテーブルの上のすべての皿がなくなっていたので、「もう食べ終わったの?」と妻に聞くと「店員に片づけられちゃった」と残念そうな顔をしていた。28017672_m

この時もまたおかしな感じがしたのだが、「デザートでも食べに行こう」ととにかくお店を出ることにした。エレベーターのところまであのマネージャーが一応エスコートしてくれたが、エレベーターのドアが閉まるまで一度も笑顔を見せることはなかった。店を出た後も妻の表情は相変わらず冴えなかったので、もう少し詳しく事情を聴くと私と娘がトイレに行っている間にあのマネージャーが妻のところに駆け寄り残っていたドリンクも奪い取るように片づけてしまったとのことだった。その話を聞いた私はもう居てもたってもいられずエレベーターに乗りなおして店内に戻りあのマネージャーに抗議することにした。

エレベーターを降りると店の入口付近であのマネージャーが立っていて、私の顔を見た途端すでに泣きそうな顔をしていたが、そんなことは構わず店中にいるすべてのお客と店員、シェフに聞こえるような声で妻への対応について猛抗議をした。

彼の言い分は次のお客が待っているので早くテーブルを空けてほしかったとのことだが、あからさまに早く出ていけと訴えかけるような彼の人を刺すような目は、その日のディナーに66,000円も支払ったお客に対する態度としてなんとも失礼で、全くもって不快であったと私は強く訴えた。

指さしコミュニケーションの落とし穴
今回は4年ぶりの家族での日本旅行。日本へ帰ってみて驚いたことはレストランやショップ、ホテルの日本人店員の接客対応の質の低下である。そもそもコンビニに入っても店員の多くの名札はカタカナで日本人の店員の姿を見ること自体が稀で、街中は想像以上に外国人だらけで私がレジに並んでも一言目から英語や中国語で話されることもあった。前述のステーキ店もお客は95%外国人。流石に高級ステーキ店とあって店員は皆日本人ではあったが彼らの対応はどこかギクシャクしていた。
そう感じた要因の一つはお客と店員とのコミュニケーションがメニューを指してお互いにちょっとニコッとするだけで終わるので、それぞれのテーブルの言葉数が異様に少なく、お店全体に活気を感じられなかったからだ。しかし私が最も問題に感じたのは店員の語学力ではなく、彼らが自分たちの仕事を誇りに思っていないことであった。

人間の真価が発揮されるとき
神対応という言葉があるように問題が発生したときに店員1人1人がどう対応するかでその人間の、そしてその店全体の評価が決まる。そして神対応に必要なのは英語でも中国語でもなく、誇りだ。日本人としての誇り、その店の店員としての誇りがあるからこそ、責任を持って問題を解決しようとした結果、神対応が生まれるのである。かつての日本にはこの神対応が至る所で見られ、その素晴らしい対応力を外国人たちが目の当たりにして日本は素晴らしい国だと称賛した。

しかし日本は変わった。神対応どころか、どうせ言葉も通じないから適当に対応しておけばいいだろうという日本人の思惑が私には至る所で垣間見れた。特に外国人の多くは日本が大好きなので、ちょっとした不満があっても口にはしない。
ステーキ店のマネージャーが日本語の分からない妻に対して強引な対応に出たのもそういった安易な考え方からだろう。もし私自身が日本人でなかったら、あのマネージャーのおかしな態度や仕草にはきっと気づかなかっただろうし、仮に気がついたとしてもステーキ自体の美味しさに満足してきっと何事もなかったかのように店を後にしていただろう。お客と店員の間でコミュニケーションが生まれないと、店で起きるたくさんのことが見て見ぬふりされる。

ただ、現在の日本経済は外国人観光客の財布によって成り立っているようなものなので、これからも多くの会社の管理層は外国人誘致を強化していくだろう。そしてそのことにより現場で働くスタッフの接客クオリティはより一層低下するに違いない。一見すれば客入りもいいし、景気復興の兆しが見えてきたとも言えるが、日本のおもてなしはすでに崩壊し始めている。とは言え、その崩壊の傾向をもう誰も止めることはできないし、そもそもそれに気がついている人もほとんどいない。

今後の日本のおもてなし文化の行く末が不安で仕方がない。

※本記事には個人的な見解が含まれています。


ルーシー龍ルーシー龍(りゅう)

東京都出身。香港歴10年。世の中のオヤジの威厳を取り戻すため愛娘に甘い妻と日々衝突を繰り返しながら子育てに奮闘中。

 

Pocket
LINEで送る