ASEANの来年の経済予測発表「UBS」
高い関税に耐えるか、移転か
決定的変化にはまだ数年かかるが、米国の関税問題により今後中国外への生産拠点の移動は加速する。ローテクノロジー産業は既に移転を加速させ、ベトナム、タイ、マレーシアの特に電子技術関連の急伸により、米国のASEANからの輸入シェアは徐々に中国のWTO加盟以前の水準へ戻ってきた。米中関係悪化の中でこの傾向は続く見込みだ。
2001年12月のWTO中国加盟から10年、米国の対中輸入量は全ての分類で劇的に増加し、2000年の8%から2009年には19%に、現在は22%前後だ。だが米国政府は現在、中国の技術進歩を制止させ、中国製品の輸入量を減らすため、対中の貿易、投資政策を変えつつある。
しかし中国のサプライチェーンとインフラ規模をASEANで再現するのは容易ではなく、長きに渡って中国の輸出競争力を増してきた付加価値の存在は大きい。米国の製品グループ別輸入をみると、中国がシェア4~5%を失ったのは生産の固定費が低く、生産場所の移管が迅速な雑貨のみ。次に移行が予想されるのは金属、プラスチック等が材料の製品だが、前述の固定費が比較的高く、中国は以前優位である。
高付加価部門で一番大きいのはIT電子技術を含む機械、輸送機器であり、米国の輸入額の40%を占める。日本のシェアが停滞する一方、WTO加盟以来中国のシェアは約26%まで倍増した。また中国は自動データ処理、事務機器、電気通信、電気機械機器分野においてもシェア40%を占め、一部のサブカテゴリー品は更にシェア拡大の可能性がある。
中国の機械輸送、ITの高付加価値商品の米国向け輸出に関しては、高額な研究開発費と豊富な労働力、主要技術を自国で開発する政府方針のために、またローエンド品に関しては規模の問題のために、移転には長い時間がかかるだろう。高騰する製造業賃金によって一定分野での中国の競争力は落ちたが、高コスト体質は中国の製造業を高付加価値商品へシフトさせた。
現在中国の対米輸出企業が迷うのは、優位な生産コスト、強力なインフラ背景があり、膨大なエンドユーザーに直売もできる中国から動くかどうかだ。一部企業は移転計画を発表しているものの、主要産業のシフトは時期尚早である。UBSのチームは以下の背景に注目する。
1)中国の輸出構成は変化し、固定費の低いもの、低付加価値商品は減少、高付加価値製品は伸びている
2)米国のASEAN輸入シェアは増えており、関税次第で更に加速するかもしれない
若年層の多さ、外国直接投資の促進等、南アジアには独自のファクターがある。特にベトナムは安価な労働力、良好なインフラ、自由化推奨の経済構造が強みだ。しかしより進化した自動化への期待から、通信、電力インフラの相応な整備がASEANには求められるだろう。
サプライチェーンの再構築は容易くないが、ASEAN等第三国へ生産拠点が移れば、米国の輸入業者が中国の関税に苦しむこともない。例えば中国が部品をASEANの国に供給して完成させ、ASEAN製の商品にするというのも1つの手段だ。ASEANの中には時間の経過と共に中国から産業の波及効果を吸収できる国もあり、今回のデータは彼らがそのための実用的生産拠点であることを示している。
(テキスト:Hilary Kwan、翻訳:Shoko Masuda)