目から鱗の中国法律事情 「中国の労働分野における「集団契約」⑤」

2024/01/31

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

Vol.88 中国の労働分野における「集団契約」 その5

今回のシリーズでは、中国の労働分野における「集団契約」を見てきました。特に前回は、集団契約の締結方法を見ていました。今回は、その続きです。

集団契約の締結方法の続き(④までは前回)
⑤労働行政部門による集団契約の有効確認
3部作成した署名入り集団契約のうち1部を労働行政部門(労働を司る政府機関)に提出したわけですが、労働行政部門が15日以内にその集団契約に異議を出さない場合、集団契約が有効となります。
協議をした者の資格や協議の手続き方法、集団契約の内容が法律などの規定に合致しているかなどを労働行政部門は確認し、これに違反していた場合、異議が出されることがあります。異議が出された場合、労働者側と企業側の協議した代表者に「審査意見書」が送付され、この場合にはこの審査意見書を参考に再度協議をやり直すことになります。

⑥集団契約の周知
集団契約提出から15日間、労働行政部門から異議が出されない場合、集団契約が有効となり、協議をした代表者は、それぞれ労働者側、企業側全員に集団契約の内容を周知することになります。

特殊な集団契約
集団契約は必ずしも一つの企業内で作成するわけではありません。一定の地域内の企業が合同して作成する区域性集団契約や一定の業界内で合同して作成する業種性集団契約という場合もあります。この意味では、集団契約は日本でいう就業規則に似ていますが、やはり就業規則ではなく、どのような範囲で効力があるのかも自由に決められる「契約」であると言えます。27613262_m

その他の注意点
日本企業という中国にとっての外資企業ではあまりないことかもしれませんが、中国の上位の工会(労働組合)は企業に集団契約を作成するように指導することもあります。その意味では、企業側にその気がなくても集団契約を作成せざるを得ない場合もあるので注意しましょう。
また、集団契約が締結されていて、労働者の個別の労働契約が集団契約より劣る内容だった場合、個別の労働契約は集団契約と同じ労働条件まで自動的に引き上げられます。個別の労働契約は集団契約を下回る内容を契約することはできないのです。


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら講演活動などもしている。韓国・檀国大学校日本研究所 海外研究諮問委員や非認可の市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。FM西東京 84.2MHz日曜20時~の「Future×Link Radio Access」で毎月1、2週目にラジオパーソナリティもしている。Twitterは@koji_xiaozhi

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