アナシス人事労務誌上相談 Vol.57「人的資本経営とは」

2022/09/14

M1問い:「人的資本経営」とかその情報開示がニュースになっているようです。「人的資本」とは何ですか?

黒崎:8月30日に内閣官房が「人的資本可視化指針」を発表しました。これに先立ち8月25日には日本企業320社が参画する「人的資本コンソーシアム」が設立と、このところ日本では注目の人事キーワードとなっている「人的資本」とは何かを簡単にまとめながら、現地経営に何が関係してくるかを考察してみたいと思います。
そもそも「人的資本」とは何か。実はそれほど新しいコンセプトではありません。ここでは「人が持つ知識や技能・能力・経験・アイデアなどを、付加価値を生み出す資本と見なし、投資の対象とする考え方」とします。一方、「人件費」など「費用」は「コスト」と考えられがちでした。コストから投資へ。その考え方が問われているのです。
なぜ昨今注目されてきているかと言えば、投資家から資金を得るには財務データなどの有形資産だけでなく無形資産の代表であるこの「人的資本」が重要視されてきたからだと言えます。2018年にはISOが世界初の人的資本に関する情報開示ガイドラインとしてISO30414を公開。2020年には米国証券取引委員会が人的資本の情報開示をルール化。日本においても2021年6月に改訂版コーポレートガバナンスコードにおいて、人的資本に関する開示・提示と取締役会による実効的な監督を求められるようになり、また岸田首相の所信表明演説でも触れられ、今回の可視化指針発表へと続いています。資金調達が必要な企業にとっては、避けて通れないテーマなのです。
ですが「人的資本経営」そのものは、海外現地法人においても学ぶべき内容があります。よく取り上げられる「人材版伊藤レポート」(2020年9月)には、人材戦略に求められる「3つの視点・5つの共通要素」が別表のようにまとめられています。「人材版伊藤レポート2.0」(2022年5月)では、それらをさらに具体化させた工夫が載せられ、アイデアの引き出しとして経営に活用して欲しい旨が書かれています。この2つのレポートで最も言いたいことは、「経営戦略と人材戦略の連動」と「CHRO(Chief Human Resource Officer)の設置」でしょう。そして「各社がそれぞれ企業理念や存在意義(パーパス)まで立ち戻り、持続的な企業価値の向上に向け、人材戦略を変革させる」必要を訴えています。
さて現地経営としてはこれらをどう考えれば良いでしょうか。
私の結論は、「人的資本経営」を現地経営者達も理解し、レポート類を参考に現地で活かせるものを実際に検討し実行していくというものです。そして「人的資本」の情報に関する考え方、とくに注目されるであろう人材育成への取り組み方とコンプライアンス関係、およびエンゲージメントに対する考え方を整理しておく必要があります。
またCHROとは「経営者の一員として人材戦略の策定と実行を担う責任者」であり、その条件として本社での戦略スタッフの経験とともに、事業側で成果責任を担った経験が必要と書かれています。現地経営に携わる方々は、この後者を海外で経験することとなり、伊藤レポートで度々使われる「CEO・CHRO」候補となれる可能性が大だと私は考えています。この点からも海外の現場で「人的資本経営」を実践していく必要性を感じるのです。
さて、その人的資本情報を収集するのはそんなに簡単なことではありません。データを取り得るものの例としては「研修時間・研修費用・研修参加率・人材確保や定着の取組の説明」「エンゲージメントサーベイ」等々があげられています。間違ってはいけないのは「人は研修だけで育つもの」ではないということです。それなのにそうしたデータばかりが取り上げられていくと本末転倒ともなりかねません。ポイントは「自社で出すべき情報を考えて特定し、収集し、可視化すること」です。それは単なる研修時間のデータや、投資した金額ではないはずです。将来を見据えて、その時の競争優位性となるものは何かを考え、それらの項目をこそ強化していくべきなのです。
これらレポート類は下記リンク先で入手可能です。是非読んでみてください。
●「人的資本可視化指針」(案)に対するパブリックコメントの結果の公示及び同指針の策定について
www.cas.go.jp/jp/houdou/20220830jintekisihon.html
●人材版伊藤レポート2.0
www.meti.go.jp/press/2022/05/20220513001/20220513001.html
●「人材版伊藤レポート」より、人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素

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<黒崎幸良 Anaxis Ltd. グループCEO>
86年より一貫して人事系業務に就き、92年より中国ビジネス、02年香港で独立。香港華南のベテランコンサルタントが集結して16年にAnaxis Ltd.を創業、香港・深セン・広州・上海に拠点を持つ人事労務コンサル会社を経営。


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