目から鱗の中国法律事情 Vol.53

2021/03/10

中国の法律を解り易く解説。
法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

 前回、中国民法における詐害行為取消権の条文を途中まで見ました。今回はその続きから見ていきましょう。

 中国法律事情

 

中国民法における詐害行為取消権(続き)

 中国民法第539条

 債務者が明らかに不当な低価格で財産を譲渡するか、明らかに不当な高価格で他人の財産を譲受けるまたは他人の債務に担保を提供し、債権者の債権の実現に影響を与えた場合、債務者の相手方がそれを知っているか知っているはずであるとき、債権者は人民法院に債務者の行為の取消しを請求できる。

 第540条

 取消権を行使できる範囲は、債権者の債権の範囲に限るものとする。債権者が取消権を行使するに必要な費用は債務者が負担するものとする。

 第541条

 取消権は、債権者が取消の理由を知った、または知っていたはずの日から1年以内に行使しなければならない。債務者の行為の日から5年以内に取消権が行使されない場合も取消権は消滅するものとする。

 第542条

 債権者の債権の実現に影響を与える債務者の行為が取消された場合、それは最初から法的拘束力を持たないものとする。

  以上が中国民法における詐害行為取消権の条文の全部です。契約法の時代の2条しかなかった規定から5条と条文の量は大幅に増えましたが、その内容については契約法の時代から全く変わらないと言ってよいでしょう。

 

中国民法における詐害行為取消権

 2021年1月1日から施行された中国民法では、第538条~第542条に詐害行為取消権が規定されました。その規定は以下の通りです。

 中国民法第538条

 債務者が、その債権を放棄、債権の担保を放棄、財産を無償譲渡などの方法で財産権を無償で処分するもしくは債権の履行期間を悪意をもって延長し、債権者の債権の実現に影響を与える場合、債権者はその債務者の行為を取消すよう人民法院に請求することができる。(続く)

 

詐害行為取消権の条文に見る中国法の特徴

 中国民法第539条は、「明らかに不当な低価格で財産を譲渡するか、明らかに不当な高価格で他人の財産を譲受けるまたは他人の債務に担保を提供」と規定するなど、日本の条文に比べて非常に具体的に規定しています。中国法は、その条文に解釈の余地がないほど具体的に規定を置く場合が多々ありますが、詐害行為取消権の条文もその例通りということができるでしょう。

 


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)、中国ビジネス法務にも言及した『中国社会の法社会学』(明石書店)他 多数。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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