総合健康診断サービス「メディポート」健康コラム:エコノミークラス症候群
新型コロナ感染症の世界的な大流行によって人の動きが極度に制限され、海外に住んでいても2年以上も飛行機に乗っていないという人も多いようです。日本への一時帰国はもちろんのこと、どこかに旅行したくて仕方がない人も少なくないでしょう。新型コロナ感染症対策としての行動制限も徐々に緩和されてきており、そろそろ旅行しようと計画している人もいることと思います。そこで長時間飛行機で移動する際の危険性として一時注目されたエコノミークラス症候群について、今のうちにおさらいしておきましょう。「エコノミー」と呼ばれているものの、もちろんビジネスクラスでもファーストクラスでもそのリスクはあります。そればかりかオフィスで仕事していても、あるいは家にいるときでさえ起きる可能性があります。職業別ではタクシードライバーや長距離トラックの運転手など長時間にわたって座り続けている人に、その発症リスクが高いといわれています。
原因は?
下肢の血行不良によって足の深いところの静脈に血液の塊ができて、その一部が血流に乗って心臓を経由して肺に達し、肺動脈を塞いでしまうのがエコノミークラス症候群です。余談ですが、肺動脈にはその名称とは反対に静脈血が流れています。肺に入ると急激に内腔が狭くなるこの血管は、最後は肺胞周囲を包み込む微細な毛細血管になります。どす黒い赤色の静脈血はここで初めて二酸化炭素を離し、酸素を受け取って明るい赤色の動脈血に生まれ変わります。さらにこの動脈血は肺静脈を通って心臓に送られます。少々ややこしいのですが心臓から送り出され末梢に向かう血液が通るのはすべて動脈。反対に心臓に向かう血管は、たとえ動脈血が流れていても静脈なのです。
エコノミークラス症候群は正確には「深部静脈塞栓症」、あるいは「肺塞栓症」と呼ばれる病気で、静脈血のうっ滞(流れにくくなった状態)や何らかの原因で血液凝固の亢進(血液が固まりやすくなった状態)が起きることが原因で発症します。静脈血は、その名の通り血液は静かに心臓に戻っていきます。心臓から押し出された動脈血に見られるような勢いはないので、太い静脈には血液の逆流を防ぐための弁が備わっているのです。動かず同じ姿勢を続けた際に血液が滞りやすく、特に下肢の深部静脈に血栓ができやすくなります。この血栓は次に大きな動きをした時に筋肉が血管を刺激するので、その一部がはがれて心臓(肺)に向かって動いてしまうのです。
ちなみに狭い空間に長期間閉じ込められてしまう宇宙飛行士はどうなのかというと、この場合は脳梗塞が起きやすくなるそうです。
動物としての基本に返る
基本的に動物はその名前の通り「動く物」です。毎日動かなければ餌にありつけず、たちまち生存が脅かされてしまいます。もちろん天敵にも捕獲され易くなってしまい、長時間にわたって同じ姿勢をとり続けることは、野生の世界ではとても危険な状態です。ナマケモノはどうなんだといった屁理屈をぶつけたくなる人もいることでしょうが、そのような特殊な生き物には特別な身体システムがあるのが普通です。例えば首がとても長いキリンの血圧は哺乳動物で最も高いので、頭部を低く下ろした際に脳への影響がないような血管構造を持っています。驚異的に進化したヒトは便利になったが故に日常生活で体を動かさなくても不都合はなくなり、また長距離の移動が座っているだけでもできるようになりましたが、ヒトの生活スタイルが変化するスピードが速すぎ、極めて長い時間を要する生物学的適合がまったく追いつていません。エコノミークラス症候群は現代生活への身体的不適合が起きているものとも言えましょう。動くことが少なくなってきた現代人特有の病気がエコノミークラス症候群といえ、便利さを追求してきた代償だと言えないでもありません。
対策は?
まずは飛行機に乗るときですが、なるべく通路側の席を確保しましょう。シートベルト着用サインが出ていないときは、時々通路に立ったり、気軽に機内を歩き回ったりできるようにしたいものです。窓側になってしまった場合は、かかとの上げ下げをするなど、足の筋肉をできる限り動かすようにしてください。トイレを我慢してじっとしている状態は避けるべきです。時には命に関わることなので、通路側に座る人に過度な遠慮は無用としましょう。エコノミークラス症候群のリスクが高いのは飛行機の中だけではありません。例え自宅やオフィスにいても同じ姿勢を長時間維持するのは好ましくありません。さらに血液が濃縮するのを避けるために水分摂取も必須です。極度に乾燥する航空機内はその意味でも危険性が高いわけですが、エアコンが効いた室内でじっとしていても同じです。運動不足の現代人ですから、エコノミークラス症候群を予防する目的だけではなく、どのような状況にあってもとにかく身体を動かす努力が求められます。「運動」と呼ばれるほどでなくとも、とにかく身体を動かすことは、超便利な社会に生きる我々にとって欠かせない生存の術なのかもしれません。
藤田医科大学卒業。臨床検査技師。
日本医科大学付属病院勤務の後、青年海外協力隊に参加し、南太平洋ソロモン諸島ガダルカナル島に2年間派遣される。世界保健機関WHOのプログラムの下でマラリア対策プロジェクトに従事。帰国後に就職した巡回健診事業を行う会社にて香港に赴任。健康に対する自身の理念を実現するため、1999年3月メディポートを設立し現在に至る。
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