花様方言 Vol. 174 <SO系の店>

2019/09/25

GODI 「MINISO」という日用雑貨のチェーン店がある。ロゴにはカタカナで「メイソウ」と書いてある。日本人は異口同音に、ユニクロと無印良品とダイソーを足して3で割ったような…と形容する。漢字だと「名創優品」で、香港を知ってる人ならさらに「優の良品」まで混ざってるように思えてくる。アジア各地で、XIMISO(煕美誠品)、YOYOSO(韓尚優品)、MUMUSO(木槿生活)などが増殖の一途をたどっているが(この3つは韓国雑貨の路線である)、ダイソーのパクリは2012年の、韓国の「DASASO」あたりから始まった。韓国語は語頭が濁音にならないので日本人の耳にはダサそうには聞こえないが、日本ではもっぱら「ダサソー」と報道しておもしろがっていた。
 急速に頭角を現してきたのが「YUBISO」(優質優品、ユビソオ)である。ロゴも赤地に白字で、ユニクロ、メイソウとまったく同じ。だが、ユニクロのパクリ、とは言われず、もっぱら「メイソウのパクリ」と言われる。日本の経済記事などでは「パクリのパクリ」と書かれる。商標権侵害のグレーゾーンだそうだ。四半世紀前の、日本でユニクロがはやる以前の香港を知ってる者にとってみれば「ユニクロはジョルダーノのまね」なので(当時まだ「パクる」という言葉はさほど普及してなかった)、香港の創業者たちはユニクロにはあまりパクリ意欲をそそられない。(ほめているのかいないのかグレーな表現。)「メイソウ」は広州の会社で、「ユビソオ」はマレーシア(らしい)。それにしても会社側もお客のほうも、MINISO、XIMISO、YOYOSO、MUMUSO、YUBISO、これらの「SO」を、いったい何の意味だと思ってるのだろう。って、もし日本人が聞かれたとしても、ダイソー(DAISO、大創)のソーは「創」だ、としか答えようがない。YUBISOのカタカナはまぎれもなく「ユビソオ」となっている。MINISO(名創)は「メイソウ」。「SO」のカナ表記に、ソー、ソウ、ソオの3つがあることになる。
d ここからは日本語表記法のグレーゾーンの話だ。「オウ」と「エイ」は日本語の音韻に刺さった2本のトゲのようなものである。内閣告示「現代仮名遣い」によると、「オ列の長音」は【オ列の仮名に「う」を添える。】とある。これがア~エの長音と大きく異なる点で、かあさん、にいさん、きゅうり、ねえさん、の「あ、い、う、え」のように「お」を添えて「とおさん、おとおと」ではなく、「う」を添えて、とうさん、おとうと、なのである。「現代仮名遣い」の「付表」でも、「そう」に対応する「現代語の音韻」は「ソー」となっている。つまり「大創」は仮名遣いが「だいそう」で音韻表記は「ダイソー」。「だいそう」と書いてダイソーと読む。おおきい←おほきい、こおり←こほり、など「お」を添えるのは旧仮名遣い(昔の発音)が「ほ」だった場合だ。神がかり的(?)なレアな姓が多い四国に「大祝」という姓があって、「おうほうり」と書かれる。おおほうり、が正しいはずだが、「現代仮名遣い」は人名や固有名詞には適用されない、と「前書き」で謳われている。強制ではないのだが、すべての規則を一般の日本人が完全に理解して遵守するのは困難、というのが現代仮名遣いの実態だ。現代の日本人の発音で「オウ」と「オー」はまだ完全には統合していない。僧、王、塔、などはよほどのことがない限り「ソー、オー、ト―」と発音されるが、添う、追う、問う、はどうだろう。ソウ、オウ、トウと言う人がかなり多いのではないか。区別がまったくできないわけではないのだが、英語の「low」(ロウ、低い)と「law」(ロー、法律)、広東語の「高」(コウ)と「歌」(コ―)などはすぐ混同する。日本人は「grey」(グレイ、灰色)を「グレー」と言うが、同じトゲでも「エイ/エー」と「オウ/オー」とでは強度が違う。ゆっくり、はっきり言う場合、「エー」は比較的簡単に「エイ」になる。「永遠」という言葉は歌詞によく出てくるが、ラップのような早口の歌でない限り、たいがい「エイエン」と歌っている。話すときは普通「エーエン」だが、これも無意識が普通なので、本人は「エイエン」と言ってる「つもり」の人も多い。歴史的にも、長音の「オー」は室町時代にはほぼ完成していたのに対して、「エイ→エー」は明治になってもまだあやふやだった。その証拠が日本語のローマ字表記に映し出されている。慶応大学は「Keio」とつづる。電車の京王も同じ。「オー」は「o」だが「エー」は「ei」。これは現在もほぼ完全に踏襲されている。「東京」は「トウキョウ=Toukyou」とはせずに「トーキョー=Tokyo」だが(Tôkyô、Tōkyōの略とされる)、ケーセー(京成電車など)はケイセイと変換(?)して「Keisei」と書く。塀(へー)、映画(エーガ)、丁寧(テーネー)などは、長音で発音しようが「エイ」のように発音しようが、「現代仮名遣い」では「慣習を尊重」した「特例」として、へい、えいが、ていねい、と書くことになっている。
というわけで「DAISO」と「ダイソー」はいいとして、ではなぜ「メイソウ」は「ウ」なのだろう。わざとだろうか。この会社の設立には日本人がかかわっていた(らしい)ので、日本人的な「ソー/ソウ」の混同で、「大創」も「ダイソウ」だと思っていたのでは、という可能性もある。では「ユビソオ」の「オ」はなぜか。(まさか、旧仮名で「ゆびそほ」ではあるまい。)ユビソオの設立には日本人がかかわってない(らしい)ので、日本語が達者でないゆえ「オ」が実現しやすかったのかもしれない。(キャッチコピーには「ュビンオいっも私の親友」と書いてある。)かくして「パクリのパクリ」たるその道のりは「-」→「ウ」→「オ」なる変遷をたどったわけだ。いとうよおかどー、と書いたのをネットで見たことがある(イトーヨーカドーが正しい)。「う」「お」「ー」を足して3で割ったような誤記だ。

大沢(おほさは)ぴかぴ

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