僕の香妻交際日記 第50回 香港人はなぜリュックを前に担がないのか
香港で毎日電車に乗っていると、どうしても気になることがあります。
リュックです。
香港は眼鏡人口が多いのですがそれに引けを取らないくらいリュック人口も多いのです。
リュック人生のはじまり
日本が超高齢社会なら、香港は超学歴社会。この香港に生を授かり、めでたく一歳の誕生日を迎えると同時に受験戦争の火蓋が早くも切って落とされます。
プレイグループを皮切りに保育園、幼稚園、小学校、中学高校、そして大学へとかれらの、否、かれらのママたちの絶対に負けられない戦いが始まるのです。
そして、その戦いはリュックにも及びます。
たいてい赤か黒かくらいしかない日本のランドセル文化とは異なり、香港ではリュックがどこのブランド、どのディズニーキャラクター、どれくらいキラキラしていて、どれくらい重い(教科書詰め込んでいる)のかなどによりヒエラルキーが生まれます。
このような少年時代を通じて香港人とリュックとの関係はより深く、強固なものになるのです。
大人になってもリュックを持つ理由
物心ついた時にはリュックでの通学が当たり前だった香港の少年少女たちは、大人になってからも、特に男性陣はリュック通勤バリバリです。
このように香港人男性が日本人サラリーマンのようにショルダータイプや手提げタイプのカバンを選ばずに未だにリュックを選ぶ理由は、かれらの通勤の服装にあります。
香港の場合は金融、不動産、弁護士の仕事以外の人は基本的にスーツを着ません。服装がカジュアルなので、日本人サラリーマンのようにガッチリした皮製のカバンを通勤時に持つ必要がないのです。むしろ、ドルガバやヴィトンのようなカバンを持っていたらちょっと気持ち悪いと思われます。そもそも機能面で言えば手提げカバンよりもリュックの方が断然上ですので、香港人からすればリュックを持たない理由を教えてほしいくらいなのです。
なぜリュックを前に担がないのか
しかし、便利だとは言えこれだけリュック人口が多いと弊害もあります。
それがリュックサックアタックです。
ただでさえ狭くて人口密度が高い香港で、なぜかいつもパンパンのリュックを持った香港人たちが電車やバスの中にひしめき合うと必ずリュックサックアタックを食らいます。
「乗車するときはリュックは前に担ごうよ」という思いやりの精神がここにはないのです。
香港でリュックマナーが定着しない原因は、子どもたちはリュックはヘルパーか親が持ってくれるものだと思っており、その結果周りへの配慮に対するマナー教育を受ける機会を失ってしまっていることにあります。
なぜ私までリュックを担いでいるのか
と、ここまでリュック、リュック言いたい放題の私ですが、そんな私も今では立派なリュック派です。来港当初、メイドインジャパンの皮製カバンを持つザ・日本のサラリーマンだった私がリュック派に鞍替えした理由は、もうみなさんも察しの通りリュックサックアタックです。それまでは皮製の手提げカバンを持つことが社会人の一つのステータスだと思っていたので、スーツに手提げかばんを持つ自分を誇らしげに思っていましたが、香港に来て毎日リュックサックアタックを食らい続けて目が覚めました。
それからというもの、通勤にスーツやシャツを着るのもやめ、カバンもリュックに変更し、香港人たちと同じような服装で快適に通勤しています。
そんな香港市民に見た目も考え方も溶け込みつつある私ですが、それでも大和魂は健在です。
どうしてかって?私は担ぎますから、リュックを前に。お・も・い・や・り。
ルーシー龍(りゅう)
東京都出身。香港歴7年。元日本語講師。元学習塾塾長。現在香港企業窓際マネージャー。柔道三段。妻は香港人。娘はハーフ。猫は香港仔出身。愛読書は武士道。