絵はメッセージの宝庫【アートセラピー】

2024/03/13

大人でも自分の考えや感情に気づき表現することは難しいが、子どもであればなおさら欲求やストレスを表に出すことは困難。教育レベルの高い香港では特に、宿題や習い事に追われ休む暇もない子どもたちが増えている。そんな家庭の親子間のコミュニケーションを豊かにし、子育てのヒントを届けるアートセラピストとして活躍する三谷さんにお話を伺った。

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発祥は欧米。医療セラピーがもと

アートセラピーとはどのようなものですか?
私が扱う絵のほかに詩やダンス、演劇、音楽などがあり、総じてアーツセラピー(芸術療法)ともいいます。さまざまな手段を用い安心安全な環境で行っています。欧米で始まった医療治療をもとに全世界で普及しました。

現在の活動内容について教えてください。
お子さんから大人の方を対象に、自宅のアトリエにお越しいただき、自由に画材を選んでいただいて絵や工作をしてもらったり、介護施設などへ伺い高齢者の方々へセッションを行うこともあります。参加者の作品を通して、今の状況や気持ち、身体の状態などを色彩心理をベースにお伝えしています。WhatsApp Image 2024-02-18 at 11.27.13

アートセラピストになったごきっかけは?
香港で結婚、出産、子育てをしてきましたが、娘の高校進学とともに日本に戻った際に私がうつ病になってしまいました。気候や生活環境の違いなどにより心身ともに疲れてしまったのだと思います。そんな時出会ったのがアートセラピーでした。実際、絵を通して自分の気持ちを表現するとすーっと心のモヤモヤが消えていくような感覚があり、資格を取ろうと決意したのがきっかけです。

 

絵は芸術以外にも、自分の内面を知る旅のようなもの

ワークショップの中でどのようなことを観察しますか?
すべての工程において私から指示を出すことはありません。参加者の方が好きな画材を、好きなように使っていただくだけです。もちろんお子さんへ「お手伝いが必要な時は声をかけてね」「何色が好き?」とサポートすることもありますが、基本的には自由にのびのびと描いてもらいます。絵が得意でないお子さんには粘土など工作をしてもらったり、表現の規制はありません。お子さん自身による特定のテーマがない場合でも、手のひらいっぱいに絵の具を広げ、それを滑らせるように感覚を楽しみながら描く子もいます。そのような時のお子さんの表情は本当に生き生きとしているんですよ。
また、観察するポイントは描くものや色を見ます。対象物がどのように表現されているか、どのパーツが強調されているかなどです。絵の良し悪しとはまったく関係はありません。すべての年齢に言えることですが、特にお子さんの絵はあなどれません。語彙や表現力が未熟な分、抱えている感情が絵としてビジュアルにそのまま映し出されるからです。WhatsApp Image 2024-02-18 at 11.23.43

大切なのは気づいてあげること

過去のセッションエピソードを伺えますか?
継続して通っていたお子さんがある時「僕できないから」と言ったことがありました。以前まではとても集中して描く子でしたが、その日は手が止まってしまいました。ご家庭できつく叱ったことや、学校で何か出来事があったかたずねると、保護者も心当たりがない様子。後日お母さんが学校に問い合わせるとスクールバス内で、お子さんへのいじめがあったことがわかり、親御さんはすぐに対応できたようです。
また多動症の男児を持つお母さんから「息子とのコミュニケーションの取り方がわからない」と相談を受け、お子さんに絵を描いてもらいました。じっとしていられない、指示通りに行動できないことをお母さんは心配していましたが、紙を前にすると彼は集中して描き始めたのです。そこにはお母さんを表すシンボルやモチーフが描かれており、「お母さん大好き」というメッセージが表れていました。その後、お母さんは彼との二人だけの時間を増やしコミュニケーションを増やしたそうです。お子さんが暴れることも少なくなっていったと聞きました。
絵はお子さんの気持ちの表れです。まわりの大人がそれを真正面から受け止め、楽しく子育てをするツールになることがアートセラピーの役目のひとつだと思っています。

子ども向けワークショップの他に、大人クラスではどんなことを?
大人も子どもと同じようにもしくはそれ以上に複雑な心理を抱えている方がほとんどです。トラウマやストレスに蓋をして日常を送っていても、どこかで糸がほころんでしまう。絵を通して自分の気持ちに気づき認めてあげることが大事だと思います。以前、社会福祉課の独居高齢者向けアートワークを開催した際に、うつ病患者で無表情だったお年寄りが数回のセッションを経て笑顔になっていったんです。これは非常に嬉しかったですね。IMG_5090 最後に、子どもが描く絵の中には子育てのヒントや子どもからのメッセージがたくさん散りばめられています。子どもたちが親を思う気持ち、成長、想像力、葛藤など、一人ひとりがとても健気に一生懸命で毎回感動させられています。ぜひ一度お子さんとともにワークショップに足を運んでみてください。IMG_5082

 

三谷 里江子さん
IMG_5141自身も経験したうつ病をきっかけに、心理表現としてのアートセラピーと出会う。2009年にアートセラピスト、カラー診断士の資格を取得。以後、自宅や福祉施設などで子どもからお年寄まで幅広い年齢層に向けワークショップを行っている。
メール: rieko.y.m@gmail.com
IG: Rieko.kokoro.artspace

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