おら東平州さ行ぐだ~♪
電波もねぇ♪住民いねぇ♪
ガスも電気も通ってねぇ!
船もねぇ♪週末しかねぇ♪
しかも戻りは1便だ♪
乗り遅れたら野宿だねぇ!
香港最果ての離島、東平州(トンピンチャウ)。
船は土日祝のみ、しかも戻りは1便だけで日曜のそれを逃すと次の週末まで足がない。普段は住民が居ないためガスや電気は通っておらず、香港のキャリアではスマホが使えない―。
そんな情報を聞き、なかなかのハードルの高さに今まで敬遠していたこの孤島。香港人の友人に「島を1周するから一緒にどう?」と声を掛けられ、この機会を逃す手はないと同行する旨を即答した編集部Aだったのだが…。
不安しかない旅の始まり
東平州までの小旅行に誘われ、ホイホイとついて行くことにした編集部A。しかし冷静に考えると、あちらは半年後に富士登山を計画している根っからの山好き香港人たち。こちらはコロナ禍で行くところがないため何となくそうなった“にわか”ハイカー家族(幼児連れ)。携帯電話もろくに使えないような僻地にもし取り残されでもしたら、果たして無事に帰ってこられるのだろうかと一抹の不安を抱きつつ、出発の朝を迎えた。
融通が利く送迎船
東平州へ向かうには、MTR大学駅の船着場からフェリーに乗るしかない。訪れた土曜日は、行きが9時と15時半の2便、戻りが17時台に1便のみということになってはいるが…、実際はかなりフレキシブルだった。
朝9時の船を数日前に予約して向かったフェリー乗り場。8時過ぎに到着したが、予約のない乗客は既に長蛇の列。最終的には明らかに1隻では乗り切れない人の数となりどうなるのかと心配していたが、状況をみてその場で増便を決めるらしく、列にさえ並べば乗船できないということはないそうだ。
そして戻りの船。17時15分のみとのことだったが、こちらも状況に応じて増便される。この日は行きの船の中で16時の便を追加することがアナウンスされた。しかしこの放送、広東語のみなので聞き取れない方は船員か近くの乗客に尋ねてみるといいだろう。
5,500万年前の地層に触れる
船に揺られること1時間半、ついに東平州に辿り着く。対岸には中国本土のリゾート地が間近に見え、頑張れば泳いででも行けそうな距離だ。
海岸沿いには5,500万年前にできたという蓄積岩が層になって隆起している様子や、ゴロゴロ転がっている岩のようなサンゴを見ることができる。香港海域で見つかっている84種の石サンゴのうち、実に65種が東平州周辺に生息しているそうだ。また引き潮になると天然のウニやナマコ、カニ、不思議な形の貝などが岸に顔を出し、とにかく周辺には海洋生物が豊富なのがわかる。
さて今回の目的はハイキング。4時間もあれば十分島を一周できるということで何とか頑張れるかと思っていたのだが、この珍しい海の生き物たちと奇岩の景色に思いのほか時間を取られ、島を半周したところで断念。同行した香港人曰く島の反対側はそれほど見学ポイントもないということで、最南端まで歩いたところで引き返し、船着場近くのレストランで昼食をとることにした。
意外! 無人島の豊富なアクティビティ
この島には、電気やガス、水道が通っていない。それにも関わらず、井戸水や発電機などを使用した週末限定のレストランが数店舗営業しており、島で採れた新鮮なウニや貝、農作物を使った料理を振る舞ってくれるので、食事に困ることはない。またビーチ前のレストランでは、シュノーケリング用具や浮き輪などのレンタルもあり、夏場に手ぶらで訪れても、この透明度の高い海で、サンゴ礁の周りに集まる熱帯魚を追いかけて楽しむことができる。さらにお湯の出るシャワーも有料で貸してもらえるので、公共シャワーのないこの島ではありがたい存在だ。 また南端と北端の決められたエリアでは、釣りも楽しむことができるほか、BBQ窯やトイレ完備の公共キャンプ場もある(公共キャンプ地のため、開放は政府の政策による)。着信音の鳴らない場所で波の音だけに耳を澄ませながら、満天の星空を眺める―。そんなことが、香港内で可能なのだ。
外で寝るのはちょっと…という人には、簡易宿泊所もある。土曜に上陸し、レストランで夕食をとって1泊して帰るという人もいるようだ。
夜はちょっと怖いかも? ムーディーな廃墟村
最盛期、2,000人ほどが住んでいたという東平州。1960年代にはほとんどの住民が島を去り、現在はここで週末のみを過ごす人がいるだけとなった。かつての村落に残された建物はその殆どが廃墟となっており、塗装が剥がれた壁からは積み上げられたこの島の蓄積岩が顔を覗かせている。これはこの島特有の貴重な建築資料といえるだろう。木のつたが絡まりつく半壊した家屋は、廃墟好きには堪らない撮影スポットとなっているが、日が落ちてからウロウロするには少し怖いかもしれない。
中国本土に近く、香港の電波も入らない孤島、東平州。とてつもなくハードルの高い場所という認識だったが、実際に訪れてみると、手ぶらでも満喫できるちょっとした自然派リゾート地だった。
行き方
MTR大学駅から徒歩10分、あるいは272Kバスで1つ目の停留所、馬料水公衆碼頭で下車。そこからすぐの馬料水フェリーターミナルから船で約1時間30分。
フェリー(土日祝のみ):馬料水発(行き) 土9:00、15:30 日祝9:00/東平州発(戻り)土日祝17:15
往復HKD100
予約は下記ウェブサイトから可能。当日予約不可。
www.traway.com.hk/ferry