セントラル「Sagrantino Italian Restaurant」で松茸とカラスミのフェトチーネを食す

2016/09/12

Sagrantino Italian Restaurant

[文・写真] 鳥丸 雄樹

フェトチーネ雨が続く9月の初め、まだディナータイムまで時間があったので、ランドマーク地下のカフェで、筆を執りひと仕事を終えた。蘭桂坊まで続く坂を上り、途中で右折。鏞記を通り過ぎると今晩のワインと夕食が待っている。給料日前だからか、景気低迷のサインなのか、今日の中環は人通りが少なく静かだが、どうやらこのレストランは違うらしい。「いらっしゃいませ。まずお飲み物はどうされますか?」「プロセッコをグラスでください。」定員さんと僕とのいつものやり取り。暫くすると薄い琥珀色の液体がシャンパングラスの中で泡を発し、僕の目の前に届く。

「どーも、鳥丸さん!」オーナーシェフ安田さんの登場だ。「まずは、シェフ’s サラダをお願いします。」シェフ’sサラダとは、もともと裏メニューであったサラダが本メニューに昇華した逸品で、レタスとモッツァレラチーズ、ミニトマト、キュウリ、生ハムが白ワインビネガーをベースとしたドレッシングに絡まるのだ。ドレッシングの酸味とミニトマトとキュウリの甘さが絶妙なバランスを保ちつつ、モッツァレラチーズのクリーミー感とレタスのパリパリ感が手を休める事を許さない。そこに生ハムの塩気が加わり、僕のプロセッコはあっという間に底をつく。

シシリア産の白ワインを頼んでいるところに、安田さんが「今日は松茸とカラスミのパスタがあるんですが、どうですか?」と聞いてくれたので、大好物のボロネーゼ(このメニューの誕生秘話は週刊PPW新聞のWEBサイトでSagrantinoと検索すると読めます)はお預けにして、今日はそちらをいただく事に。待つこと約5分。テーブルに運ばれて来たパスタは湯気を上げ、お皿からはみ出るくらいのカラスミが縁にまで掛かっていた。まずは、厚めに切られた松茸を食べようと口元まで運ぶと、何とも言えない松茸の香りが鼻をくすぐり、キノコ特有のコリッとした食感の後に高尚な香りが鼻を抜けていった。「すごい良い香りですね!」「実はこれ、雲南省産なんですよ。でも日本産のと遜色ないでしょう?」「はい!全然ないですね。美味しいです。」 上海の和平広場にあった四川省産のキノコ何十種類をスッポンと共に食べさせる火鍋屋を思い出した。あそこの店も日本人が多かったな。「昔、外国では松茸なんて捨ててたらしいですよね?」「そうそう。踏み潰してたらしいですよ。それが日本人が有り難がるものだから、だんだん値段が上がってきたらしいですね。」最近では広州の高級日本料理屋なんかでも四川省や雲南省の松茸を出すとも聞いている。松茸を二、三切れ食べたところで、僕のシシリーワインは見る見ると減っていった。

松茸の下に隠れていたパスタが、ようやく顔を出す。お、平べったいフェトチーネではないか。フォークに絡めると自然とフェトチーネがカラスミを拾ってくる。一口。喜びが先か、驚きが先か。アリオリソースだと勝手に思い込んでいたが、濃厚なクリームの味が口いっぱいに広がった。「え?ニンニクの白ワイン仕立てかと思ってました!安田さん、これ凄い美味しいです!」にこっとして、やったり顔の安田さんが言う。「でしょう!アリオリソースでも作って食べ比べてみたんですが、やっぱりこっちの方が美味しかったんですよね。私自身が試作品を完食してしまった事自体、久々なんですよ。」「クリーム味だっとは驚きました。」「いえいえ、鳥丸さん。クリームは入れてませんよ。それ全部チーズです。」「え?クリームではないんですか?チーズを刷って入れてるんですね?!」「はい。そうですよ。ちなみに、イタリア人がカルボナーラかそうでないかを決める基準は、生クリームを入れるか入れないかなのを知ってましたか? 生クリームが入っているのはカルボナーラじゃない!っていうのが彼らのプライドなんですよ。」 「知りませんでした!僕、家でカルボナーラ作る時は、かなりの量の生クリームを投入してました・・・。」「当店は、マグロの漬けパスタなどの和とのフュージョン的なパスタもありますが、カルボナーラなどの基本的なパスタの作り方は、イタリア修行時代に叩き込まれた本場の作り方を貫き通してるんですよ」「そうだったんですね!」 「松茸とカラスミのパスタは期間限定です。まだちょっと仕入れ値も高くて、サプライヤーも在庫がない時があり、提供できない日も多いんです。あと、時期もあるんで、10月末くらいまでのその内何日間提供できるか…。」何ともいい時に僕は来店したわけだ。本メニューではないので、売切れご免のパスタである。是非お試しあれ。

さて、最後に特筆するが、中環で創業したSagrantinoは10月で9周年を迎える。レストランの入れ替わりが多い香港で大変な偉業だ。10周年まであと1年。楽しみで仕方がない。

※記事内で紹介のメニューは食材の入荷状況により、提供できない場合がありますので、予約時にご確認ください。

Sagrantino Italian Restaurant
住所:5/F., THE LOOP, 33 Wellington St., Central
電話:(852)2521-5188
ウェブ:www.sagrantino.com.hk/

鳥丸 雄樹(とりまる ゆうき)
元JEFユナイテッド市原のジュニアユースでもあり、元バンドマン。ロンドンのコヴェントガーデンにあるHard Rock Caféや上海でライブ活動を行い、ロスの日刊サンへの寄稿を経て現在に至る。フェイスブック友達も募集中!

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