尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.16

2020/03/04

準拠法の選択

準拠法条項とは

 国際取引では、準拠法の選択が問題となります。準拠法の選択とは、以下のようなものです。

 完全な日本国内の取引の場合、日本法を適用するため、準拠法の選択という問題は生じません。では、中国から原料を輸入する場合、売主と目的物が中国にあることを考えると、中国法を適用すべきように思われますが、買主と代金の支払が日本であることを考えると、日本法を適用すべきようにも思われます。

 このように、契約が複数の国に関わるため、どの国の法律を適用すべきか分からない状態が生じます。このような場合、契約に適用される法律は当事者が選択することができ、これが準拠法の選択という問題です。

 

日本法を適用すれば有利なのか

 では、契約交渉の場合で日本法を準拠法とすることは絶対に必要なのでしょうか。もし中国法を準拠法とすると、どのような不利益があるのでしょうか。

 まずご理解いただきたいのは、中国法を適用したほうが貴社に有利になる場合も考えられるということです。

 例えば、貴社が債務を負っており、それが長期間放置されていたとします。一方、中国法では通常の債権の消滅時効は3年です。6年後に訴訟を提起された場合、日本法ではまだ時効の期間を満たしていませんが、中国法が適用されれば、貴社は時効により債権が消滅していることを主張することができます。この例でいえば、中国法が適用されたほうが貴社にとって有利になります。

 では、日本法を準拠法とするメリットはどこにあるのでしょうか。

 それは、「予見できない落とし穴」に遭遇することを防げる点です。日本の会社であれば、どこにリスクがあって何に気をつければよいかある程度知ることができますが、中国法が適用になると、予見できないリスクに遭遇する可能性が増えます。

 交渉の場で日本法を準拠法として主張するのは、このような「予見できない落とし穴」を避けるという趣旨なのです。中国法に精通した弁護士の力を借りれば、「落とし穴」に先回りして、契約書で条項を設け、いわば落とした穴に「蓋をする」ことも可能です。

 このような十分な対策を取った上で、準拠法の点では譲歩し、より重要な点で相手方の譲歩を引き出すことも1つの方法です。

 

中国法の適用が強制される場合

 なお、契約の種類によっては、準拠法を当事者が選択することはできず、中国法が強制的に適用される場合があります。例えば、外国企業と中国企業との間で合併企業を設立する場合の合併契約は、中国法を準拠法とする必要がありますので注意が必要です。

 


shenxiu

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Profile Photo尹秀鍾 Yin Xiuzhong
慶應義塾大学法学(商法)博士。東京と北京の大手渉外法律事務所での執務経験を経て、2014年に深センで広東深秀律師事務所を開設。2020年春に広東卓建律師事務所深セン本部にパートナーとして加入。華南地域の外国系企業を中心に幅広い法務サービスを提供。主な業務領域は、外商投資、M&A、労働法務、事業再編と撤退、模倣品対策、紛争解決など。

 

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