目から鱗の中国法律事情 「中国民法典における契約④」

2023/08/28

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

Vol.83 中国民法典における契約 その4

今シリーズでは、2021年1月1日から施行されている中国民法典における契約の規定を見ています。前回は、「申込の取消」が途中で終わってしまいました。今回は、その続きからです(中国語では「取消」は「撤銷」)。

申込の取消(撤銷)(続き)
中国民法典第476条は「申込は取消しをすることができる。ただし、以下の場合にはできないものとする。①申込者が、承諾を伝える期限を確認する、もしくはその他の方法で明示的に取消はしないとの確認をしていた場合。②申込を受けた者が、その申込が取り消されないと信じる理由があり、かつ契約履行のために合理的な準備をした場合」と規定していると前回述べました。
これを見ると、申込の撤回より要件は厳しくないものの、やはり契約のために申込まれた者が準備行為をするなどした場合は、申込の取消は出来ないことになっています(もっとも、その他に申込が取り消されないと信じる正当理由があることが必要ですが…)。そのため、相手方が申込に対して承諾した後は、申込の取消はできないという規定もあります(中国民法典第477条)。24390683_l

申込の失効
しかし、申込がなされてもその申込がいつまでも効力を持つわけではありません。申込の効力が失われるときも中国民法典には規定されています。中国民法典第478条は「次のいずれかに該当するときは、申込は失効する。①申込が拒絶された場合。②法律により申込が取消された場合。③承諾のための期間が満了して申込を受けた者が承諾をしなかった場合。④申込を受けた者が申込内容を大幅に変更した場合」と規定しています。
確かに、申込が拒絶されたり、申込が取消されたりしたら、常識的にも申込は失効したと考えていいでしょう。ここで分かりにくいのは、「申込を受けた者が申込内容を大幅に変更した場合」でしょう。申込を受けても、その申込の内容通りの承諾がなされるかは分かりません。
例えば、「Aという製品を100万円で買わないか?」という申込があったとして、「買いたいが、80万円であったら承諾する」というように、申し込まれた条件を変えて承諾するべく交渉する場合があります。つまり、そのような申込の内容をそのまま受け入れるのではなく、別の条件を示したが、その内容が大幅に変更されたものであった場合、それも申込の失効と法律上取り扱うということです。

「契約」のための「申込」などは、ビジネスを行う場合、必須の知識です。今シリーズで指摘したような点は覚えておきたいものです。


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら講演活動などもしている。韓国・檀国大学校日本研究所 海外研究諮問委員や非認可の市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。FM西東京 84.2MHz日曜20時~の「Future×Link Radio Access」で毎月1、2週目にラジオパーソナリティもしている。Twitterは@koji_xiaozhi

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