目から鱗の中国法律事情 Vol.73

2022/11/09

中国の法律を解り易く解説。

法律を知れば見えて来るこの国のコト。

 

中国の新法「インターネット詐欺防止法」その1

中国では、2022年9月2日に新しい法律として「インターネット詐欺防止法(中国語原文は「反電信網絡詐騙法」)」が可決・公布されました(主席令第119号)。この新法は2022年12月1日から施行される予定です。中国に在住している方は分かると思いますが、中国ではものすごい勢いでインターネットが普及しています。そして、それに伴いインターネット上の詐欺行為などが多く見られるようになったことからこの法律が制定されたとされています。今シリーズでは、この新法について見ていきましょう。

インターネット詐欺防止法制定経緯
中国ではインターネットの爆発的普及と同時にインターネット上での犯罪も多発するようになりました。特にインターネット詐欺防止法の制定理由として中国政府は、以下のような実態を挙げています。
インターネット詐欺は数も増えているが、類型も複雑化している。2022年4月には最高人民法院(最高裁判所)が10件のインターネット詐欺の典型例を公開したが、それも虚偽の投資への誘因やニセ健康グッズの販売など多方面に及んでいる。特に2018年8月から2019年4月にかけて、37人で結成したチームがインターネットゲーム上で詐欺を働き189万元の被害を出している。さらに、2021年12月に公安が発表した2021年1月~11月の犯罪統計でもインターネット詐欺事件は37万件発生し、容疑者は54.9万人いるとなっている。
このような現状に対応するためにインターネット詐欺防止法は制定されたとされています。23877716_l

インターネット詐欺防止法の規定
インターネット詐欺防止法に規定されている内容は、基本的に「刑事罰」です。そして、規制の対象となるのはインターネット事業の経営者や銀行などとなっています。条文上では明確には述べておりませんが、インターネット詐欺に対する対策ということで、銀行によるネットバンクの取扱いに強い規制が入るということになりそうです。また、各地の公安が連携してインターネット詐欺活動に有効な懲罰を加えるという規定も置かれました。
このため、インターネット事業などを営んでいる方以外には、普段の生活を大きく変える法律ではないと言えます。しかし、先に述べたような中国で大規模となっている犯罪行為へ対応する新法ができたということで、次回も引き続きインターネット詐欺防止法の条文を見ていきましょう。
(続く)


高橋孝治〈高橋 孝治(たかはし こうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員
北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)、国会議員政策担当秘書有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格者)。中国法研究の傍ら講演活動などもしている。韓国・檀国大学校日本研究所 海外研究諮問委員や非認可の市民大学「御祓川大学」の教授でもある。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』、『中国社会の法社会学』他多数。FM西東京 84.2MHz日曜20時~の「Future×Link Radio Access」で毎月1、2週目にラジオパーソナリティもしている。Twitterは@koji_xiaozhi

P30 Lawyer_731

Pocket
LINEで送る