尹弁護士が解説!中国法務速報 Vol.63
営業秘密の漏洩と競業ビジネスの防止方法①
Q:労働者が使用者の秘密情報を漏らしたり、退職後に競合ビジネスをすることを防ぐ方法はありますか?
A:使用者は秘密情報の漏えいなどを防ぐため、労働契約または秘密保持契約で秘密保持条項を定めることができます。秘密保持の対象は、使用者の営業秘密と知的財産権です。使用者は、退職後に労働者が競合ビジネスをすることを防ぐため、労働契約、秘密保持契約または競業避止契約で競業避止に関する条項を定めることができます。
ただし、法律、法規の規定に違反して、競業避止の約定をすることは禁止されています。
競業避止条項
使用者は、秘密保持義務を負う労働者との間で、労働契約、秘密保持契約または競業避止契約において、競業避止(「競業制限」ともいいます)に関する条項を約定することができ、係る競業避止条項で、労働者が退職した後(労働契約の解除または終了後)、競業避止期間内において月毎に労働者に対し経済的補償を支払うことについて約定する必要があります(労働契約法第23条第2項)。
労働契約法第24条第2項によれば、「競合ビジネスに従事すること」とは、使用者と同種の製品を生産もしくは経営する、同種の業務に従事する競合関係にあるその他の使用者に就業し、または自ら開業して同種の製品を生産もしくは経営し、同種の業務に従事することをいいます。
使用者は、労働者が競合ビジネスに従事することを、無制限に制約できるわけではなく、競業避止条項の約定には以下のとおり一定の制限があります。
(1)対象者の制限
競業が制限される者は、使用者の高級管理職(会社の総経理、副総経理、財務責任者及び会社定款で定めるその他の人員)、高級技術者及び秘密保持義務を負うその他の者に限定されます(労働契約法第24条第1項)。
(2)競業避止の期間、範囲、地域
使用者が競業避止義務を課すことができる期間は、労働契約の解除または終了後2年を超えてはなりません(労働契約法第24条第2項)。2年を超える競業避止期間を約定した場合、2年を超過する部分は無効となります。
競業避止の期間、範囲、地域などについては、労使双方間で約定することができますが、競業避止期間の上限規定のように、法律、法規の規定に違反して約定することは禁止されています(労働契約法第24条第1項)。
(3)競業避止の代償としての経済的補償の支払い
使用者が、労働者に競業避止義務を負わせるためには、労働者の退職後の競業避止期間内において、当該労働者に対し、毎月経済的補償を支払う必要があります。
経済的補償については、地方によってその金額基準が異なりますので、労使双方間で約定する際は注意が必要です。
労使間で労働契約または秘密保持協議書に競争避止を約定しましたが、労働契約の解除または終了後に労働者に経済的補償を与えることを約定せず、労働者が競争避止義務を履行し、使用者に対し労働契約の解除または終了前の12か月間の平均賃金の30%を経済的補償として月毎に支払うよう要求した場合、法院はこれを支持しなければなりません(労働紛争審理解釈(2020)第36条第1項)。また、前述の月平均賃金の30%が労働契約の履行地における最低賃金基準を下回るときは、労働契約の履行地における最低賃金基準により経済的補償を支給する必要があります(同第2項)。
(続く)
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尹秀鍾 Yin Xiuzhong
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