PPWビジネス通信 × アナシス Vol.37

2021/01/20

M1

人事労務のアナシスによる誌上相談会

『賃上げ率からの逆算評価は何が問題でしょうか?』
問い:今年の賃上げを考えるのが難しく、個人別に先にUP率を決めてからそれを評価として反映させようと考えてますが、何が問題となるでしょうか?

黒崎:明けましておめでとうございます。まさに賃金改定対応中の方もいらっしゃるのではと思います。昨年末より各団体が次々に「昇給率」を発表しています。新型コロナの経済影響もあり、現時点では悲観的なデータが多く見受けられます。今年が例年に増して予測が難しいのは、各社の業績に大きな差があることです。一部では急激な業績回復も見受けられますので、平均データである昇給率はあくまでも参考として見るものになるでしょう。

 さて、それでもそうした公表された数値というものは従業員側の期待値へ影響します。全般的には賃上げにそれほど期待できないというムードでしょうが、自分の仕事の忙しさと共に自社の業績が回復していることが分かる場合には、期待値もあがりますので注意です。それでも限られた予算の場合、今回のテーマである「逆算評価」が発生しやすくなってしまいます。結論から言えば、逆算評価は避けるべきです。

 人事制度のご相談をしていると実態としてよくあるのがこの逆算評価です。専門用語では「逆算化傾向」という評価エラーのひとつで、昇給率や賞与などの処遇を念頭に置き、逆算してつじつまを合わせて評価をしてしまう傾向のこと。「最終的に6%以上賃上げしないと辞めてしまうからA評価だ」「B評価がついたらモチベーションが下がるからつけられない」などなど。

 この原因はマネジメント力の無さ・弱さにあります。確かに中国・香港では賃金がモチベーションの大きな要素であることは確かです。しかしその価値観が強すぎて評価の目的を「処遇の決定のみ」と評価者が勘違いしていることがその原因のひとつです。評価の目的は「(1)処遇の決定(2)人材の育成(3)目標達成の為の日々の軌道修正」の三つ。年に1回の賃金改定の為にだけにあると考えてはいけません。特に人材育成という観点は忘れられがちです。さらに日々のマネジメントとして、いつでもどこでも評価なのです。

 

 逆算評価をしてしまう原因はこのように、

1.「評価は処遇決定の為だ」という意識が強すぎる
2.人材育成という目的を理解していない
3.日々の軌道修正・フィードバックが行われていない
4.評価項目そのものが深く検討されていない
5.部下から不平不満がでるのが怖い

などがあげられます。

 

 評価項目ごとに適切にフィードバックできない管理者の中には、総合評価を高くすることで面子を保ち、部下から感謝を受けたいという心理を持つ人もいました。逆算評価の予防策としては人事制度・賃金制度の見直しと、人事のポリシーを明確にした組織文化の醸成、評価者自身の育成などがあげられます。

 制度としては予め評価のルールを従業員に知らせておき、評価項目も組織戦略に合わせて基準をできる限り明確化しておくことが求められるでしょう。

 

 そして評価者は、

1.評価の目的をまずしっかり理解すること
2.処遇のことを最初に考えずに、部下に日々フィードバックしながら、事実を観察・記録しておくこと
3.多面評価などにしてできる限り客観性を担保すること
4.個別の項目のみ評価し、総合評価をつけさせない

などがあげられます。

 

 賃金改定のこの時期へ来て慌てても、残念ながらもう遅いのです。「評価の達人」たちはそれを見越して目標設定から用意周到です。そして日々評価し、フィードバックしています。この時期へ来ても、この1年言い続けてきた評価を伝えるだけです。ずっと言い続けてきたものであれば、部下の理解や納得性は高いはずです。そして処遇そのものは組織全体の台所事情によることも伝えておかなければなりません。

 今からでもきちんと振り返り、事実と論理を持って評価と処遇をお考え下さい。「情」はその後です。そして次年度こそは「評価の達人」になっていただきたいと思います。

 


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アナシス Anaxis

 


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