総合健康診断サービス「メディポート」健康コラム:鳥インフルエンザはなぜ怖い
メディポート代表:堀 真
毎年、秋が深まり少し肌寒さを感じる季節になると、決まって鳥インフルエンザのニュースを耳にするようになります。最近の日本の事例では青森や新潟で養鶏場のニワトリが32万羽以上も殺処分されています。さらに今月に入り佐賀県や岐阜県でそれぞれ数万羽のニワトリが殺処分されました。韓国でもニワトリの大規模な殺処分が行われており、その感染動向にはどこもとても神経質になっています。たった1羽の感染が認められただけで、何十万羽のニワトリを、ごく短時間のうちに処分するという膨大な作業を行わなければならず、人的負担も甚だしく大きいものです。昨年12月初旬には、名古屋の東山動物園で飼育されていたコクチョウ3羽から鳥インフルエンザウイルスが確認されたことで、同園はほぼ1か月間閉園するという異例な対応を余儀なくされています。
鳥のインフルエンザであるにもかかわらず、なぜこのような厳密で神経質な扱いになるのでしょうか?養鶏場での殺処分は周辺への感染拡大を阻止するための唯一の方法としてとられる対策なのです。もちろん近隣への感染拡大がないものと仮定して部分対応でその都度処分したとしても、結局すべてのニワトリに感染して全滅してしまう可能性が大きいものです。たとえ殺処分せずとも養鶏場にとっては極めて深刻な問題ですが、実は、これは決して養鶏業にとどまるものではなく、公衆衛生上の大きな問題にも関連することなのです。鳥インフルエンザは新型インフルエンザの原型でもあり、ヒトの世界でも決して軽く扱うことはできないものなのであることを忘れてはいけません。1900年代初めに大流行して世界中で3000万人が死亡したとされるスペイン風邪は、記録に残る最も古い新型インフルエンザです。このスペイン風邪は鳥インフルエンザがヒトのインフルエンザウイルスと組み換えを起こして生まれてきたものと考えられます。現在流行中のH3N2型インフルエンザ(A香港型インフルエンザ)も同じく鳥インフルエンザを起源としています。
A型インフルエンザウイルスにはその表面にスパイクのように突出したHAとNAとよばれる構造があり、現在HAに16種類、NAに9種類の変異があることが分かっています。これらの組み合わせ(H3N2、H5N1、H1N1・・・・・)は144通りになりますが、水鳥からはこれらすべてのウイルスが発見されています。これらのうちヒトのインフルエンザとして流行を繰り返しているものはH3N2型などごくわずかであり、他は偶発的にヒトに感染することが確認されているものがある程度です。これまでに確認されているヒトへの感染事例で目立つものはH5N1、H7N9といった高病原性鳥インフルエンザウイルスです。ニワトリなど家禽類に強い毒性を示すもので、こ
のようなウイルスが近い将来ヒトのインフルエンザウイルスに変異し流行するのではないかと懸念されているのです。
このような変異は、鳥インフルエンザウイルスにもヒトインフルエンザウイルスにも感染可能なブタの役割を無視することはできません。ブタに両者のウイルスが感染して同じ細胞内に同時に二つのウイルスが存在すると、両者の遺伝子が組み換えを起こして新しいウイルスが生まれてくる可能性が生じます。たとえば高病原性の鳥由来ウイルスとヒトの間で強い感染力を示すウイルス(A香港型ウイルス)が遺伝子組み換えされると、強い毒性を持ち、なおかつヒト‐ヒト間で強い感染力を有する新型ウイルスが出現するわけです。最近、鳥インフルエンザにヒトが偶発的に感染する事例が世界中で散発していますが、こうなるとヒトの体内でも同様のウイルス変異が起きることが可能性として考えられます。
秋から寒さのピークを迎えるころまでは特に鳥インフルエンザが話題になりますが、これは寒さを避けて南に移動する渡り鳥がウイルスを運んでくるためです。ちなみに渡り鳥は高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染しても発症することは少なく、ウイルスの運び屋としての役割を担うことになります。つまりこの時期は、ヒトやブタに高病原性鳥インフルエンザウイルスと季節性インフルエンザウイルスが同時に感染する機会が増すことになり、新たなウイルスが生まれてくる危険性につながるわけです。その意味から鳥インフルエンザの扱いは厳密にならざるを得ないのは当然です。
現在のところ鳥インフルエンザに対して一般の人が神経質になる必要はありませんが、死んだり弱ったりした野鳥に近づかないことは、感染予防策として基本中の基本事項となります。