メディポート健康コラム:なぜ減量、なぜ運動
最近少し太ってきた。健康診断の結果が思わしくなく、医師から体重を落とすよう指示された。そんな人たちが一念発起して減量に挑もうとするのは珍しくありません。健康志向が強い昨今、当然の流れでもあります。その具体的な方法といえばインプットを減らすか、あるいはアウトプットを増やすかであり、基本的には食事制限と運動に限られます。それにしても「運動しないといけない」と、多くの人が身体を動かして痩せようと考えるのが不思議です。これは、現代人は運動不足であるという一般的な認識が浸透しているので理解できますが、長年にわたって体内に蓄えられてきた余分な脂肪を運動エネルギーに変えるのは至難の業です。なぜ減量が必要なのか、どうして運動しなければいけないのかという本当の理由を理解しなければいけません。今回は現代人の運動不足と食生活について、ヒトの進化に伴う様々な変化も含めて考えてみましょう。
ヒトが高度に進化した理由
ヒトが動物と分かれて進化したのは二足歩行を可能としたからです。つまり、それまでからだを支えることを主な機能としていた4本足のうち「前足」が「手」になり、手指の機能が急発達してモノを上手くつかめるようになっただけでなく、道具を作れるようになりました。さらにそれまで恐れていた火を自由に使えるようになり、煮炊きすることで食べたものの消化吸収率が非常に良くなったのです。特に糖質の吸収が効率的になったので脳容量が著しく大きくなり進化に弾みを付けました。ちなみに脳の活動には大きなエネルギーが必要で、ヒトの場合、全体重のおよそ2%を占めるだけの脳で消費される糖質(グルコース)の量は、全身で必要とされる量の20%にも及びます。ヒトの進化には効率的な栄養摂取、特に糖質摂取が絶対的に必要な条件だったのです。
肥満と飢餓
ヒトも地球上の生物としての一角を占めているわけですが、著しい進化を遂げたばかりに特別な存在となり、いつの間にかその頂点に君臨しています。自然界での動物は食物連鎖の下で生物としての存在の量的バランスがとられています。ひとたびある餌が不足すると同じ餌を必要とする動物の個体数が当然ながら減ります。ところがヒトはその知恵を使って獲物を効率的に捕獲し、さらに農業や畜産をおこなって食糧を増産して人口を増やしてきました。ついにそれが自然環境に悪影響を与えるほどになってしまったのが現代です。自らの生存のための行いが、自然環境を破壊して自分の首を絞める状態にまでしてしまいました。そして供給できる食糧は経済力、つまり金の力で裕福な所に過剰供給されているのです。肥満に悩む人々と、反対に飢餓にあえぐ人々が、同じ地球上に存在します。餌が少なくなっていくときは「等しくエサ不足に苦しむ」のが野生の世界です。自然界ではありえないことがヒトの間には普通に起きています。
進化と富が肥満を生んだ
ヒトは栄養状態が良くなって進化しましたが、そこには経済的な格差も生じてしまいました。つまり食物を自給するしかなかった状態が「購買」して得るようになったので、経済力のある人が食に関して優位な立場になったのです。もちろん食べる食べないは各自の性格や嗜好に左右されるものですが、比較的恵まれた人々は、好きなものを食欲に任せて好きなだけ食べた結果、「肥満」という贅沢な悩みが生じてしまったのです。これとは別に低所得者の肥満問題がありますが、これは少し別の視点で捉えなければいけないのでここでは除外して考えます。
運動に対する捉え方
痩せるために運動するのは間違いではありませんが、効率が悪すぎます。1㎏の減量に必要な消費エネルギーは7000kcalを上回り、これを仮に歩いて消費しようとすると30~40時間を要する計算になります。体重や歩く速度によっても違いますが、かなり長時間の運動が必要であることは容易に理解できます。やはり飽食の時代には減食が必要です。では運動の目的は何なのか。生物学的な視点から考えれば、我々が行っている一般的な運動は無用と言えましょう。動物にとって必要以上の運動は種の保存に反する行為であるとして本能的に避けているのです。ふだん意味もなく必死に走る動物はおらず、筋肉や心肺機能を極限まで使って息を切らしている動物はヒトだけです。運動は極度に進化したヒトの娯楽と考えておくとわかりやすいのかもしれません。
必要な運動レベル
健康という視点にフォーカスすると、激しい運動は逆効果でもあります。長生きするというある意味リスクを抱えている以上、100歳を迎えても寝たきりになるのを避け、自分で立てることを目標にしたいものです。車社会に慣れてしまうと大切な下半身が衰えます。腕の筋肉が衰えても指先さえ使えれば機能的にはほとんど困りません。ところが足が弱ると立てなくなり、たちまち生活に支障が生じます。とにかく四の五の言わずに歩きましょう。「街中の運動器具」ともいえる階段をなるべく利用したいものです。歩く動作はほぼ全身の筋肉を動かすことになるので、生活に必要なすべての機能を維持するためにとても有効です。歩行運動を中心に、日常生活の中での運動量をできる限り増やそうと意識することは、便利さの中に生きる我々にとって最も重要だと考えます。
藤田医科大学卒業。臨床検査技師。
日本医科大学付属病院勤務の後、青年海外協力隊に参加し、南太平洋ソロモン諸島ガダルカナル島に2年間派遣される。世界保健機関WHOのプログラムの下でマラリア対策プロジェクトに従事。帰国後に就職した巡回健診事業を行う会社にて香港に赴任。健康に対する自身の理念を実現するため、1999年3月メディポートを設立し現在に至る。
医療・健康の総合コンサルタント Mediport International Limited
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