目から鱗の中国法律事情 Vol.37

2019/11/06

中国の労働組合(工会)その1

労働組合とはなんでしょうか。日本では、労働者の連帯組織であり、誠実な契約交渉の維持、賃上げ、雇用人数の増加、労働環境の向上などの共通目的を達成するための集団と言われています。しかし、中国ではこれと大きく異なります。以下、見ていきましょう。

工会と政治
 中国の労働組合は「工会」と呼ばれています。工会について規定している法律が「工会法」ですが、工会法第5条は以下のように規定しています。

工会組織および教育労働者は憲法および法律の規定により民主権利を行使し、国家の主人公としての作用を発揮し、各種の方法および形式により国家の事務に参加および管理し、経済および文化事業を管理し、社会事務も管理する。人民政府を補助し、業務を展開し、労働者階級の指導を保護し、労働者と農民の連合を基礎的な人民民主主義政治の社会主義国家政権とする。

この条文を見ると、まるで政党について規定しているかのように見えます。しかし、これが工会の本質なのです。
社会主義体制となった中国が行った統治モデルは、職場を通じた政治参加でした。つまり、各職場に工会(基層工会)を置き、そこに所属している労働者の政治的意見を基層工会が聞き、基層工会はその意見を一つ上のランクの工会(市県総工会や地方産業工会)に伝え、この意見を受け取った工会はさらに上のランクの工会にこの意見を伝え、最後は国家レベルの工会に意見が伝わり、国家レベルの政治家の耳にその意見が届くという形式です。
ここで疑問に思われるのは「上のランクの工会」という言葉でしょう。実は、中国には職場ではない場所にも工会があるのです。職場に置かれていない工会は、例えばある市や県を統括し、その市や県内の工会から上がってくる意見をまとめる役を担っています。
このように、中国の工会は日本の労働組合とは大きく異なり、労働者の意見を政治家に伝える、いわば政治参加のツールでもあるのです(もちろん、この他にも工会には労働者の権利保護のための機能も当然に「一部」あります)。そのため、工会は非常に政治的な側面を持ちます。

工会の加入者
 
工会に加入できる者は当然に労働者です。工会法第2条第1項は、「工会は職工が自ら結束した、労働者(工人)階級の群衆組織である」と規定しています。しかし、ここでいう職工や工人には「董事長(社長)を含む」と解釈されています。これは、中国国内の事業体は全て国有、つまり全ての労働者を雇用しているのは国家であり、社長と言えど国家に雇われている労働者、すなわち雇われ社長であるという発想からきています。

(続く)


高橋孝治〈高橋孝治(たかはしこうじ)氏プロフィール〉
立教大学 アジア地域研究所 特任研究員

中国法研究を志し、都内社労士事務所を退職し渡中。中国政法大学博士課程修了(法学博士)。中国法の研究をしつつ、執筆や講演も行っている。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会)。詳しくは「高橋孝治 中国」でネットを検索!

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