航空会社客室乗務員の阿部良香さんにインタビュー

2015/07/28

 

理解してもらおうと一方的に情報を伝えるよりもまず相手の話に耳を傾けることが大切

 

幼い頃は快活なおてんば娘。英語を学び海外で働いていく中で、自分が先頭に立って人を指導していく難しさに気づいていく。時を経て、大人の女性として洗練された彼女にわがままだった幼い頃の面影はなく、相手の話に耳を傾け、人を気遣うことができる大人に成長していた。自主独立の精神を失わず、周りの仲間からの信頼も厚い彼女に話を聞いた。

 

どのような子供時代でした。
活発な女の子でしたね。優等生タイプではなくどちらかといえば、目立ちたがりやで自分のやりたいことを追及する自己中心的な所のある子供でしたね。よく目立って、なんとなく面白そうな選挙活動がやりたくてどんな業務をするのかもよく分からず、生徒会の役員に立候補してたくらいですから。学生時代の部活は中学・高校ともブラスバンドでサックスを吹いていて、音楽の基本的なことは学びました。当時はバンド活動全盛期で、多くの学生がバンド活動していたため、目立ちたがり屋の自分も当然バンドを組んで活動を始めました。香港で暮らしている今でもバンド活動は続けています。

高校卒業してからは日本でどのように過ごしていたのですか。
短大では英米語学科を専攻しました。英語に興味があって入った外国語大学の短期大学部でしたが、クラスの大半が帰国子女、留学経験者の中で、留学はおろか海外旅行すらしたことのない珍しい学生でした。短大時代は日本食の料理店
でアルバイトしていたんですが、そこの料理店をよく商談などで利用している会社の社長さんとお知り合いになりました。彼は、いつも外国からのお客様をお連れになり、私が英米語を専攻しているということもあって、必ずそのお部屋担当に指名されました。短大を卒業するとアパレル関係の会社に内定したのですが、偶然、その社長さんと会う機会があり、「あんなに英語を話せるのにもったいないじゃないか。せっかくだからうちの会社で働かないか」と思ってもないお誘いをいただくことができました。その時は、自分のいままで頑張ってきた英語を認めてもらえて、必要とされることがとても嬉しく感じましたね。

初めて就職した会社ではどのようなお仕事をなさっていたのですか。
社長のお誘いで入社した会社はコンピューター関係の機材を取り扱っている会社でした。私は秘書兼通訳のような立ち位置でしたね。カナダ人と仕事をすることが多かったので彼らと日本人の間に立って、コミュニケーションをとったり、英語で仕事のマニュアルをつくったりしていました。そこで2年ほど働いていたのですが英語をもっと話せるようになって仕事にも活かせるようになればいいな、という思いが日に日に大きくなっていきました。気がづけば仕事をやめてワーキングホリデービザを取ってカナダで仕事についていましたね。

阿部良香(あべよしか)さんなるほど、ここでいよいよ英語を使って仕事をしたいがために海外に出るわけですか。カナダから香港ではどのような経緯でいらっしゃったのですか。
カナダでは編集関係の仕事についていたのですが、英語を活かして働けるという点は十分に満足していました。しかし、働いているうちにもっと英語だけではなく、専門性の高い技能と知識を身につけるような職業に就きたいな、と考えるようKeyWoman香港、広東で輝き続ける女性に会いたい!になってきたのです。そうは言っても弁護士や医者になるのは無理だし、何か自分の良さを活かして、自分にもできる職業を探していました。そんな時に現在の航空会社の求人を見かけました。これはチャンスだと思い、早速応募しましたね。香港の某航空会社なのですが、採用試験は日本で行われました。採用試験は珍しく、1日で完結するもので、試験日は朝から晩まで拘束され、筆記や面接などが1日中行われました。合格者には試験終了後日、電話で合否を通知されるようになっていたのですが、私がわざわざカナダから来ていたことを知っていたため、最終面接と思われる面接で、「これが最後だから安心してね。君は採用だよ。今度は香港で会いましょう」と、口頭で伝えられました。そんな経緯があって、6週間後には香港で、働き始めることになったのです。香港で働くことを打ち明けたら周りの親しい人達の反応はいかがでしたか。
わりと自主性を重んじる寛容な両親だったので、香港に渡って仕事に就くことについては特に何も言われなかったですね。しかし周りの友人には香港についての知識が十分にないためか、「中国人に騙されるなよ」、「絶対にオフィスや飛行機を見るまで会社の存在を信じるな」などさんざん言われましたね。そんなことはないだろうと心の中でも分かっていましたが、当時は、全く名前も聞いたことのない航空会社だったので、想像がつかないところがあり、入社までの6週間は不安も感じました。

実際、香港に着任してからの阿部さんのキャリアをお教えください。
入社後、まずは研修を行い、フライトアテンダント(以下FA)として現場に配属されます。経験を積んでいく中で、私の場合は入社5年目に転機が訪れました。仲間とのコミュニケーションを円滑にするため、北京語を学ぼうと社内の研修に参加しようとしたところ、間違えてFAのインストラクター採用試験に応募してしまったのです。後日、マネージャーの方達と面接が行われたのですが、北京語の研修に参加するつもりだった私からしてみれば、なぜこのような仰々しい審査があるのか少々戸惑いました。後にインストラクター採用面接だと知って驚きましたね。結果は、合格。初のDual Crewとして、現役のFAがインストラクターとして新人トレーニングやパーサーの昇進コースを教えたり、日本人クルー採用試験に面接官として参加し
たりと、二足のわらじを履くこととなり、それから14年間続けました。ということは、やはり教えることが好きだったんでしょうね。一枚の申し込み用紙の間違いから始まった経験が、私の人生に大きな影響を与えることとなりました。2年前には、インストラクターを退き、今は100%FAとしてアジアの空を飛んでいます。

ライブの様子インストラクターという教える側に回って、初めて気がついたことや、苦労したことはありますか。
今までは、私が私がと、自分を前面に押し出して人生を送ってきた部分もあるのですが、やはりコーチングでは人との信頼関係やコミュニケーションが重要なので人の話に耳を傾けることが1番大切だと気づきました。自分勝手でわがままな所のあった、自分と向き合ういい機会でしたし、そこを改善していくのが一番大変だったかな。自分を分かってもらおうとするよりも、相手のことを理解しようとする。相手のことがわかってくれば、自分がどうサポートしていけばいいかがわかる。うまいサポートができれば、よいチームワークに繋がり、いい成果が生まれる。仕事がもっとおもしろくなる。簡単なようでなかなか難しい。もっと早くに実践できていれば、人生もっと楽に、スムーズに過ごせてこれたかもしれませんね。


乾杯の様子
入社した頃の自分に何かアドバイスを送るとしたら。
やっぱり、北京語と広東語の勉強をしろと言いますね。香港では、英語でももちろんコミュニケーションを取るのに問題はないのですが、それはあくまで仕事中のコミュニケーションが限界です。外国人を本当に理解するにはもう一歩踏み込まなければならないのです。例えば香港なら広東語という、母国語を学べば彼らの文化的な背景も分かってくるので、彼らの生活を深く理解できるようになり、友人とももっと親密になれるはずです。特に私のように日本人が1人しかいない環境で、ほかに友人を作って深い友好関係を築こうと思ったら相手の母国語でコミュニケーションが取れるようになるのが一番の近道です。

プライベートはどのように過ごしていますか。
最近はバンド活動を行っています。不定期ではありますが、木曜日に「Wanch」という湾仔のバーで、ライブをしています。全曲オリジナルで、ジャンルはプログレッシブロック。私はボーカル兼サックスを担当しています。是非聞きに来てください(曲のビデオ、ライブのお知らせは、FB「Ludovico」をご覧下さい)。あとは趣味のワインに時間をあてることくらいかな。ワイン好きが高じて、10年前にはソムリエの資格も取得しました。1ヶ月の無給休暇がとれた時には、念願だったフランスのボルドーに仏語留学に行ってきました。仏語を仏語で学ぶというかなりハードなものでしたが、勉強の息抜きには、(ボルドーにある学校を選んだだけあってクラスメイトもワイン好き。)クラスメイトとシャトー巡りに繰り出しました。サンテミリオンで作られるメルロー主体の、土の香りを含んだ野性味ある赤ワインが私の好みです。皆さんもぜひ飲んでみてください。

最後に香港で働く日本の女性にメッセージをお願いします。
航空会社でFAとして働く人たちの大部分は女性です。昇進のチャンスは、男性優位ということはなく、国籍、性別、年功序列に関係なく平等に与えられます。また、これは私の主観的な認識も入っているかもしれませんが、日本企業にいたら就けるようになるまで10年かかるポジションも、香港企業なら努力次第で5年で就けるようになります。香港は様々な国籍の人々が働いているので人種、国籍に関係なく実力のある人を登用しようという雰囲気がありますね。仕事の話ばかりしてしまいましたが、最後に私が何よりも言いたいのは香港生活を仕事だけで終わらせてほしくないということです。香港にいられる間に香港をもっと知って頂きたい。香港は英語が通じるので比較的過ごしやすいと思いますが、長年住んでいると嫌な面もいろいろ見えてきます。ですが、嫌な面が見えてきたら、倍の「いいとこ探し」をして、ちょっとした周りに転がってる「ハッピー」も見落とさず、このエネルギッシュな香港からもらえる「エネルギー」は全部吸いとって、香港でしかできないことを探して、たくさんの新しい経験をしてこそ、「ああ、やっぱり香港でよかったわ。」という充実した香港生活が送れるのではないかと思います。

 

バンド出演の様子

阿部良香(あべよしか)さんプロフィール
短大を卒業後、コンピューター関係の機材を取り扱う会社に就職。その後、ワーキングホリデービザを取得しカナダへ。カナダではフリーペーパーを発行する会社で編集として働く。
1994年5月に香港の某航空会社に客室乗務員(FA)として就職し今に至る。航空会社での勤務は21年になる。そのうち14年間はクルーを育成するインストラクターも兼務する。休
日はバンド活動やワインのテイスティングを楽しむ。ワインのソムリエの資格も持つ。

 

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