PPWビジネス通信 × アナシス Vol.40

2021/04/21

M1

人事労務のアナシスによる誌上相談会

 

 「従業員にワクチン接種を強制できますか?」

 

 

問い:業務上、必要性を感じるのですが、新型コロナ対応ワクチンの接種を強制することはできませんよね?(香港)

黒崎:お察しの通り、強制は出来ません。推奨することは可能ですが、非常にセンシティブなトピックです。人によって何を重要視するのかが違うので、従業員との対話を十分にする必要性があります。

 香港での新型コロナ対応ワクチンの接種が人口の4月13日で9%を超えました。まだ低いようですが、これからまだまだ伸びるでしょう。接種の是非をめぐっては様々な考え方がありますが、私は医学の専門家ではありませんので、マネジメントの観点で思考を通しておくべき事は何かを香港を例に取り上げたいと思います。

 香港の方を対象にワクチン接種に関する調査を弊社で実施しましたが、そこでも経営側より従業員へ向けてワクチン接種を推奨する・する予定の企業は限られていました。多くの企業では会社としての意志は表明していません。これはワクチン接種が「何を最重要のリスクとするか」という問いに対して、全ての関係者を対象としたときの絶対的な正解がないことに起因しているものだと考えます。人によって大事にすることが違う。医学や科学、論理というものだけで解決するものではない、「思想」の違いによるものだという認識をまず持つことが必要なのだと私は考えています。

 それゆえ、たとえワクチン接種を推奨したいと経営が考えたとしても(もちろん強制はできませんが)、その考え方を組織に浸透させることに成功できるかどうかは別問題です。これはワクチン接種を推奨する各国政府の対応も経営側にとっては参考となるでしょう。

 ワクチン接種推奨派の論理は主に二つです。

(1)新型コロナに感染しないと同時に感染させない、ということは社会的責任である
(2)統計的には「有害事象」となる可能性は低く、かつビジネス活動に制限がかかりにくくなる可能性が高い。あるいは来客者には安心感を与えるものとなる。

 中国ワクチンは中国ビザ取得時に便宜が図られるといわれています。また欧州などでもいわゆるワクチンパスポートという可能性がでてきており、出張が想定される場合には接種がビジネスに影響する可能性があります。また、接客業ではワクチン接種が半ば義務のようになることもあるかもしれません。実際弊社には、中国出張を増やす戦略がある場合にワクチン接種の是非をどう考えるかというご相談も来ています。この場合、経営が求めているものは「ワクチン接種」でも「出張」でもなく、「仕事の成果」であることに注意が必要です。その職務にどんな成果を求めているのか。その成果をきちんと評価できる設計ができているかということを準備しておく必要があります。

 一方ワクチン接種を否とするのは反ワクチン派・不要派・不安派と大きくわけて三つあります。「反ワクチン派」とは、歴史的な薬害などからの考えを持っている人や宗教的な理由、あるいは政府に対して不信を持つ人などを含むグループです。

 「不要派」とは「かかったとしても軽症で終わるのでは」「感染対策をしっかりしているので不安はない」「感染者数が減っており、差し迫ったものとは思えない」といった理由で、今ワクチンを打つ必要を感じない人達です。

 「不安派」は一番多いかも知れません。100%効果が得られて副反応が0%の安全なワクチンなど存在しません。この誰でも分かる論理に加え、様々なニュースが誤報・デマを含めて我々を取り巻いており、それがさらなる不安を呼びます。ワクチンの副反応は扇情的に報道されやすく、一方安全性をうたうものはあまりニュースになりません。誤報道の訂正は滅多にされず、SNSではデマが流れていきます。ここから安全への信憑性が疑われ、不安・不信からワクチンへの拒否反応を持つ人も生まれてきているようです。

 これら不要派・不安派を、「最重要のリスク」が人によって違う中で論理的に説得するのは難しいものがあるでしょう。まずはできるだけ正確な情報収集が必要です。そして接種のベネフィットとリスクを、従業員と丁寧に対話する必要があります。安全性の観点からのワクチンの有効性と副反応リスク、そしてビジネス戦略上の観点を含めて判断することになります。

 香港ではまだ様子見の人も多いようです。中国製とドイツ製のどちらを打つのかということも今の香港ではセンシティブな話題です。情報の正確さだけでは解決できないこの問題。労務上ではワクチン接種の時間を賃金控除するのか否か、具合が悪くなった時はどう対応するのかなども検討しておいた方が良いテーマです。

 


●この1年でのべ2,000名以上のご参加者を得たアナシスの各種ウェビナー講座。
最新の賃金調査情報をもとにした「評価の達人」「フィードバックの達人」など充実したコース内容は弊社までお問い合わせ下さい。

●お問い合わせ等はアナシス香港の牧野までご連絡ください。 (hkinfo@anaxis-asia.com

 

アナシス Anaxis

 


Anaxislogo

会員制の人事労務コンサルティングファームです。地場に根ざす、経験と実績のあるコンサルタントが対応いたします。香港・深圳・広州・上海でトータルサポートいたしております。詳しくはアナシス香港の牧野までご連絡ください。

住所 : Suite 8, 12/F., Tower 2, China Hong Kong City, 33 Canton Rd., TST
電話 : (852)2180-2005
メール: hkinfo@anaxis-asia.com
ウェブ: www.anaxis-asia.com

Pocket
LINEで送る