焼鳥屋「鳥州力裏庭」広州市天河区
広州市天河区は体育東路に面白い焼鳥屋がオープンしたと聞き、早速某フリーペーパー営業マンのUさんと行ってみた。その名も“長州力”ならぬ“鳥州力”だという。正佳広場を背に道を渡り、ローカル飲食店独得の油の香りが漂う道をしばらく進むと、ビルの2階からちょっと開けた雰囲気が伝わってくるお店がある。暗い階段を上りきると出迎えてくれるのはレゲエの神様ボブ・マーリーが描かれた暖簾。「え?これが焼鳥屋?」と思いながらも暖簾をくぐると、元気な声に出迎えられる。「いらっしゃいませぇ~!!ようこそっ!」あまりにも威勢が良いので一瞬驚くが、左手に焼場とカウンター、奥に小上がり席がある店内は天井が高く開放感もあり、今の広州にはない雰囲気が心地よい。それもそのはず、彼らは天津や北京の華北地区から満を持して進出してきたそうな。お揃いの黒いTシャツに身を包んだ彼らには、若いエネルギーが漲っている。焼場を仕切るのは、ラスタファリアンとも侍ともお見受けする髪を結わえた店長の吉田さん。このお店のムードメーカーだ。お客が焼酎を注文すれば、吉田さんが「黒霧島ご注文いただきましたぁ!!」と大きく発声し、他のスタッフが続いて元気に「ありがとうございまぁす!!」と応える。お客が面白がって、3回も「この店、美味しいね。」というと、すかさず吉田さんが「3回目の美味しいねを頂戴いたしました!」「ありがとうございます!」といった感じで、他のお客にも笑顔が広がる。
「鳥丸さんはビールですね?僕はハイボールで。」珍しく営業マンUさんが一杯目から焼酎ロックではなかった。この季節になって坊主頭のUさんの額には汗がじわっと広がることが多くなったが、ここまで暑いとやはり最初の一杯は炭酸物が飲みたいんだろう。一杯目のお供に我々が選んだのは冷菜の鳥皮酢。適度な酸味と葱の風味をまとった鳥皮のプリプリ感が夏に心地よい。さてさて、ここは焼鳥屋なので、焼鳥を頂こうではないか。1本8元からの焼鳥は大振りとは言えないが、種類が豊富で楽しめる。中でも僕のお薦めはツクネだ。隣のお客が吉田さんと話しをしていたが、「俺はこういうツクネの方が好き。軟骨が入っていてコリコリするよりも玉葱とか野菜が入っていて甘みがあるのが好みなんだよなぁ~」というように、肉々しいジューシーさの中に野菜の甘みが溢れている。2杯目の芋焼酎も進む逸品だ。
Uさんと食事をしていると、氷を取りに行ったスタッフが着たTシャツの背中に書かれた華北地区の地名が目に飛び込んできた。「最近の天津はどうですか?」吉田さんに聞いてみた。「今、天津ではこういう感じのカウンターで日本料理を食べるのが中国の方に受けています。それがトレンドのようですね。」「天津のお店はどの辺りですか?老房子がある方ですか?開発されている方ですか?」「老房子がある旧市街の方です。」天津かぁ。懐かしいな。タクシーが捕まらず、途方に暮れながら雪が大降りの零下の中を歩いた事もあった。天津名物の狗不理よりは、北京の包子の方が旨かったな。
回想を遮る様にUさんが聞く「鳥丸さん、そろそろ締めは?」ここ最近Uさんに連れられて広州旨いもん巡りをしているせいか、体重が増えてきた僕はツクネ入りのスープで炭水化物は控えることにした。鶏でダシを取ったスープは優しい味で、飲んだ後には持って来いだ。
あ、懐かしい一升瓶が目に留まる。次回は天津で造られている日本酒“朝香”でツクネを味わうことにしよう。
香港を拠点に活動するフリーライター。ロスの日刊
サンへの寄稿を経て今に至る。自身がベースボーカ
ルを担当したオルタナティブなハードコアバンドを
引き連れて90年代は、ロンドンのコヴェントガー
デンにてライブ活動を行う。現在、随筆風フェイス
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