エッセーの瀬!Vol.122
~在中邦人の感賞的後日談~
音楽、文藝、料理、絵画…世の中のありとあらゆる藝術を、市井の目線から解いてゆく…
気鋭のライター4人が送る痛快リレーエッセイ
コロナ冒険記 外伝
この人生はネタだらけだと語ったあの人のように、私もこのコロナ禍に一つネタが出来た。いや、今まさにネタが作られていく渦中にある。この文章が世に出回っている頃には無事に広州で変わらぬ日常を過ごしていることを祈るばかりだ。私は今、とある上海の安宿でこの文章を書いている。安宿といっても最近のエコノミーホテルは清潔で明るくベッドもふかふかで居心地が良い。今の私にとって唯一の救いである。
なぜこの時期に上海に居るのか? ロックダウンが明けてそんなに経っていないこの時期に、用もないのに上海に行くはずもない。そう、私は非常に重要な用事がありここにいるのだ。私の場合、毎年居留許可の更新に上海にやってくる必要がある。今回はたまたまロックダウン明けだったわけだが、今年の上海は一味も二味も違うようだ。本来であれば一年に一回の上海滞在を楽しみにしてくるが、ロックダウンの影響が色濃く残っているであろうこの時期は正直来たくはなかった。その気持ちを知ってのことか、天は敢えて様々な障害を送り込んできたように思う。
ロックダウン解除以降に上海に引っ越した友人の話では、連続してフライトのキャンセルが起こったと聞いていた。彼の場合はフライト変更をした先に、立て続けにキャンセルとなり、しまいには白雲空港からの出発を諦め深圳空港から飛んだという。その話を聞いていて覚悟はできていたが、フライトを予約した2時間後にはもうキャンセルの通知が入っていた。往復で取った帰りのフライトにいたっては、自動的に1日ずれる形となり、その日のフライトは全滅したことを物語っていた。
出発前日のフライト状況を探ると、10パターン近くはあっただろうフライトが4つに絞られ、結局は南方航空か東方航空の選択肢しかなくなっていた。私は出発時間の都合で選択肢は1つに絞られ、ここ数カ月話題の東方航空となった。
無事にキャンセルは免れたが、乗り込んだ飛行機が無事に飛んでいくことを心の底から祈った。後で知ったが、最初にキャンセルとなった便もコードシェア便で結局は東方航空だった。よくある話で、機内では隣の人と座席の所有空間を取り合うことが世の常であるが、中国のこの戦いは熾烈であり、私はこの争いに一度も勝ったことが無い。隣のおじさんは私が席に着く前から肘掛けを占領し、大股を開いて私の侵攻を強固に妨害した。私は戦う前から負けていた。さらに狭くなった座席で縮こまりながら、飛行機が落ちないかドキドキしながらなんとか私は上海に降り立ったのだった。
今いるこのホテルに向かうには地下鉄が便利だったが、コロナの影響か地下鉄の入り口は封鎖されていた。仕方なくタクシー乗り場に向かうと、タクシーに乗るには上海の健康コードを読み込む必要が有った。WeChatで読み込もうにも外国人のためか、なかなかうまくいかない。私はタクシー乗り場の係員に事情を説明し、広州の健康コードを見せて何とか乗車できることとなった。
何とかなるもんだと思いタクシーに乗り込む。運転手が行き先を聞いてきたので、百度地図のAPPで場所を伝えると、「お前、あっちに乗れ」とのジェスチャー。まさかの乗車拒否だった。近頃はDIDIばかり使っていたので久しぶりの洗礼に懐かしささえ感じた。それを見ていた係員が文句を言わずに乗せてやれと言ってくれた。しかし、確かにホテルまでは6㎞しかない。大当たりを狙ってわざわざ空港のタクシープールに来た運転手の気持ちもわからないでもないし、いやいや運転されても自分の気分も悪くなると思いDIDIで行くことにした。
【ご注意】上海に到着したら
①外国人は支付宝で上海の健康コード「随申码」のQRコードを読み込み登録しましょう。
②到着後可能な限り早くPCR検査を受けましょう。
イゴッソ・YOSHIDA
訪中歴10年後半のベテラン選手。広州が大好きで日本に帰りたくない派である。仕事で訪れた中国の都市は数えきれないが、仕事以外はいつも家にいる。趣味は、ゲーム、読書、音楽鑑賞、ガンプラ、外卖など生粋のインドア派。個人的にヴィジュアル系ロックバンドの波が来ている。封鎖式管理を機にVR(バーチャルリアリティー)に乗り出しインドア派レベルを上げた。