ビジネスの翼 第4回

2020/02/05

biz wing 3「平凡な常識を捨てて、出る杭となれ」ソニーに在籍時にVAIOシリーズでAV(オーディオ・ビデオ)パソコンという新しいジャンルを築き上げ、グーグルに入社後は日本法人の代表に就任。2010年、アレックス株式会社を設立し、世界に日本の優れたプロダクツを発信する。辻野氏の常識の枠にとらわれない世界を見据えた発想力に中国・香港在住20年ウィングファットインターナショナル中込直樹が迫る。

 

中込直樹:辻野さんはソニーでVAIOを立ち上げられパソコン市場に革命を起こしましたね。
辻野氏:VAIOが発売された90年代半ば、すでにマイクロソフトやインテルがパソコン市場を席巻していました。ソニーは「人がやらないことを誰よりも最初にやり、世の中に存在しない市場を作っていく」会社でした。だからVAIOはソニーのDNAを感じられる新しいデジタル家電として世に出したんです。初代の液晶モデルは外観には紫色を採用し、キーボードに蓋をつけるなどデザインにも凝りました。ソニーの強みであるAV機能を充実させビデオ編集や、テレビ録画ができるソフトを標準搭載したAVパソコンとして、大ヒットしたんです。

IMG_1454中込直樹:その後、Googleに入社され、日本法人代表取締役社長を務められましたね。
辻野氏:創業者の井深さん、盛田さん亡き後、2度にわたるソニーショックに見舞われ経営が困乱した。私はそのような状況に、強い危機意識を持ちました。ソニーを退職後に、Googleから誘われ入社したんです。Googleで見聞きすることは新鮮なことばかりでした。Googleは世間が常識と思うことじゃなくて、非常識と思うことをやって急成長してきた。それは昔のソニーの理念と共通していましたね。

中込直樹:辻野さんは、日本人社会の受け身な姿勢へも提言をされています。
辻野氏:日本は平均値は高いが、先生や親からの教育で受け身に慣れた人が多い。それに加え日本の同質社会では、話さなくてもお互いに分かり合えるという甘えがある。しかしこれからは受け身で思考停止に陥っていては成功できないんです。Googleの社内では言語によるコミュニケーションを重要視しています。「イノベーションは意思疎通から生まれる。だからコミュニケーションをさぼるな」とよく言われていました。世の中を良くするためにはもっと自分の意見を言う「出る杭」となる人を増やし、変革していかなければならない。これには教育改革も必要でしょう。

中込直樹:辻野さんが「Alex」の設立にあたり「日本の優れた人材、アイデア、技術を世界に発信する」と述べられていますね。
辻野氏:日本で生まれたソニーが尊敬される世界企業に成長し、その製品が人々の生活を豊かにしてきましたが、日本の家電も元気が無くなってきてしまいました。同じように日本の伝統産業や工芸も放っておけば、どんどん衰退していく。何とかしたいという思いがあった。彼らが作り出す日本の優れた商品を世界の人々に使ってもらい、豊かな生活にも貢献したい。もう一つのクラウドファンディング事業は日本から世界に挑戦する人材を育成、発信したいという想いで立ち上げました。例としては、フランスで自分の個展をやりたいという漫画家さんの資金を集め開催に導き、女性浪曲師の春野恵子さんも資金を集めて、ニューヨーク公演を成功させた。彼らの人生を変えるお手伝いができたという想いと共に多くの成功例を作ることで、それに続くグローバルに活躍できる人に出てきて欲しいと思っています。

中込直樹:将来を見据えた新規事業はありますか。
辻野氏:現在、厚労省が先進医療として位置付けている一つに「水素吸入」があり、その効果も臨床試験で証明されています。弊社ではこの水素吸入事業を推進し、水素ガスを作り出し吸入する装置を今年から販売開始しました。(www.alexcious.com/ja/products/detail3272.html

中込直樹:香港にいる読者にもグローバルに働きたいと、海外で働くことを選んだ人が多いですが、彼らへのメッセージをいただけますか。
辻野氏:香港は私も大好きな街です。香港の若者たちの政治に向き合うエネルギーの高さは受け身に慣れた日本人も見習うべきでしょう。現地で働いている日本人の皆さんにも、その香港で見たり経験したエネルギーをメッセージにして日本に発信し、受け身な日本人に活を入れて欲しいですね。

 

 


 

Mr 辻野P10 Business_wingfat 726辻野 晃一郎
(アレックス株式会社代表取締役社長兼CEO)
福岡県生まれ。84年に慶応義塾大学大学院 工学研究科を修了し、ソニーに入社。88年に カリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社し、アレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長兼 CEOを務める。神奈川県 ME-BYOサミット神奈川実行委員会アドバイザリーメンバー。株式会社ウェザーニューズ社外取締役。

 


Mr 中込中込 直樹
Wing Fat International Creative Ltd(ウィングファット・インターナショナル)代表取締役。製造拠点(3ヵ国4工場)を中心にキャラクターライセンスを使用したマーケティング、企画製造を手掛ける傍ら、プロサッカー選手・本田 圭祐氏とタイアップ事業等、多方面で活躍。山梨県南アルプス市出身。

Pocket
LINEで送る